国際情報

日本の官製報道では見えない日米首脳会談の「同床異夢」

日本の報道は成果ばかりを強調するが(AFP=時事)

日本の報道は成果ばかりを強調するが(AFP=時事)

 さて、余談と思われるかもしれないが、大事な話なのでここから始めさせていただく。アメリカ人が今、最も気にしているニュースは、コロナでもないし、中国問題でもない。もちろん、日米首脳会談などほとんど話題になっていない。一番の関心は銃乱射事件である。アメリカでは連日のように乱射事件が起き、15日のインディアナ州の事件では8人が死亡した。こんなに毎日のように乱射事件が起きるのは、銃社会のアメリカでも異様なことである。筆者が移住してからの47年間では間違いなく初めての経験だ。

 インディアナ州の事件では、犯人の母親が事前にFBIに息子の異変を通報していた。しかし、それで警察が全く動かないほど、この種の事件は日常になってしまった。人種差別が悪化していることは日本でも報じられているようだが、背景にある白人至上主義の台頭、右翼や無政府主義者、極端な左翼の動きは海外からはわかりにくいだろう。アメリカは明らかに越えてはならない一線を越えようとしている。

 こんな世相でコロナが再拡大することは非常にまずい。しかし、国民の半数近くがワクチン接種を終えているにもかかわらず、コロナは拡大を続けている。一日8万人という新規感染者は、第4波におののく日本の20倍だ。アメリカの人口は日本の3倍である。この数字がどれだけひどいかわかるはずだ。それなのに、若者たちは「コロナは終わった」と騒ぎ、パーティーや旅行に明け暮れている。

 バイデン大統領は、ワクチン接種を全力で進めながら、経済復興を急いでいる。3兆ドル近い政府のカネを使ってインフレ政策を推し進めようとしているのは、そうでもしないと国民の不満や鬱屈した気持ちを払拭できないからだ。

 前置きが長くなった。とにかくそんな国内危機のさなかに日本の菅義偉・首相はホワイトハウスに招かれた。バイデン政権で初めて来米した国家首脳である。しかし、これを「日本重視だ」とありがたがる日本の報道はいったん忘れてもらいたい。アメリカ人が見ているアメリカの報道からすると、これは小さなニュースである。中国が増長していることは言うまでもないし、アメリカは動かないわけにはいかない。しかし、それは急を告げる問題ではない。それがわかっているから中国は強気なのである。だから日本が選ばれた。中国問題を日本に任せたいのがバイデン氏の本音である。

 バイデン氏は、事前に国務長官、国防長官を日本に送り、事務レベルで日本とすり合わせをした。「尖閣防衛は日米安保の課題だ」といったリップサービスをすることで日本国民の信任を得て、実質的には東シナ海の問題は日本に丸投げするのがアメリカの戦略だ。日米外交筋を取材すると、そのあたりに関してはかなり突っ込んだ事前協議があったようで、しかも難航したという。当初、日本政府がアナウンスしていた日程より、首脳会談が1週間遅れたのは、それが理由のひとつだったとされる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

エンゼルス時代、チームメートとのコミュニケーションのためポーカーに参加していたことも(写真/AFP=時事)
《水原一平容疑者「違法賭博の入り口」だったのか》大谷翔平も参加していたエンゼルス“ベンチ裏ポーカー”の実態 「大谷はビギナーズラックで勝っていた」
週刊ポスト
グラビアから女優までこなすマルチタレントとして一世を風靡した安田美沙子(本人インスタグラム)
《過去に独立トラブルの安田美沙子》前事務所ホームページから「訴訟が係属中」メッセージが3年ぶりに削除されていた【双方を直撃】
NEWSポストセブン
中条きよし氏、トラブルの真相は?(時事通信フォト)
【スクープ全文公開】中条きよし参院議員が“闇金顔負け”の年利60%の高利貸し、出資法違反の重大疑惑 直撃には「貸しましたよ。もちろん」
週刊ポスト
阿部詩は過度に着飾らず、“自分らしさ”を表現する服装が上手との見方も(本人のインスタグラムより)
柔道・阿部詩、メディア露出が増えてファッションへの意識が変化 インスタのフォロワー30万人超えで「モデルでも金」に期待
週刊ポスト
昨秋からはオーストラリアを拠点に練習を重ねてきた池江璃花子(時事通信フォト)
【パリ五輪でのメダル獲得に向けて】池江璃花子、オーストラリア生活を支える相方は元“長友佑都の専属シェフ”
週刊ポスト
店を出て並んで歩く小林(右)と小梅
【支払いは割り勘】小林薫、22才年下妻との仲良しディナー姿 「多く払った方が、家事休みね~」家事と育児は分担
女性セブン
大の里
新三役・大の里を待つ試練 元・嘉風の中村親方独立で懸念される「監視の目がなくなる問題」
NEWSポストセブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
「特定抗争指定暴力団」に指定する標章を、山口組総本部に貼る兵庫県警の捜査員。2020年1月(時事通信フォト)
《山口組新報にみる最新ヤクザ事情》「川柳」にみる取り締まり強化への嘆き 政治をネタに「政治家の 使用者責任 何処へと」
NEWSポストセブン
愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田自民「補助金バラ撒きリスト」入手ほか
NEWSポストセブン