世界最強のアメリカ軍といえど人間である。祖国や家族のためならまだしも、日本の、しかも誰も住んでいない小さな無人島のために命をかけて戦うのはご免なのだ。日本人の一部もそれに気づきつつある。中国の挑発は我慢ならないが、アメリカ軍が手を出さない場合に、本当に自衛隊を派遣して命がけで中国軍と戦う覚悟が日本にあるだろうか・バイデン政権はそれを慎重に見極めようとしていた。しかも日本には、平和を謳えば敵国は攻めてこないと考える左派層がいまだ少なからずいることもアメリカ政府は熟知している。
日米首脳の共同記者会見を注意深く見ると、台湾問題に関する言及はあっても、中国本土の問題については具体的な言葉がない。これは、事前に事務レベルで話したとされる内容と大きく異なっている。日本の報道は詳細に確認していないが、ここから読み取れるのは、どうやら両首脳は対中国の具体的な戦略については合意できなかったようだ。アメリカはかなり踏み込んで日本に大きな役割を求めたはずである。おそらく菅首相はそれを?めなかったのだろう。アメリカの手に負えない難題なのに、日本が先頭に立って中国と事を構えるのは並大抵の覚悟ではできない。
中国との軍事衝突について、もちろん防衛省・自衛隊では詳細なシミュレーションをしているだろう。しかし、問題は日本政府にその決断ができるかどうかであり、その後ろ盾になるのは日本国民が自衛隊員や場合によっては民間人の犠牲を受け入れてでも命がけで中国と戦争する覚悟があるかだ。ウォール・ストリートで長く活躍する友人のフィルとちょうど話す機会があったが、対中国の軍事政策についてフィルは、「日本が中心になってくれればありがたいが、日本人は戦争の勝算を考えるより、戦争をしない方法を考える国民だと思う。中国に圧力をかけることができるかは疑問だ」と言う。
日本の大手メディアは、外交については外務省や首相官邸の発表通りに報道することが多いと理解している。しかし、アメリカの報道やアメリカ人の気持ちは、それとは大きな隔たりがあることは知っておいたほうがいいだろう。
■佐藤則男(ニューヨーク在住ジャーナリスト)