佐橋は企業局長だった頃、産業公害を防ぐための工場立地計画を推進していたが、当時の通産大臣・佐藤栄作が大臣折衝で折れてしまい、予算を取れなかった。そこで佐橋は佐藤を前にして「それでもあなたは実力者なんですか」と言い放ったという伝説が残る。
元経産官僚で政策工房代表を務める原英史氏はこう指摘する。
「当時の官僚にとって、『国家のことを考えているのは政治家ではなく官僚』という認識は疑いようのないものでした。とりわけ通産省にはこの2人に象徴されるように、省内組織が一色ではなく様々な議論を戦わせ、自由闊達に議論できるような文化がありました。それがあの当時、高度成長の時代を牽引したとも言えると思います」
『官僚たちの夏』は、今は昔の話になった。
※週刊ポスト2021年5月21日号