特急列車で2時間半かけて娘の家まで移動すると、入院中は何も食べられなかった男性が食事を口にして、満足そうに微笑んだ。移動後にすぐ亡くなると思われた男性は2か月ほど生き長らえ、家族に見送られて旅立った。男性の在宅医療を担当した長尾さんが振り返る。
「この男性のように、家に戻ったら食事ができるようになり、満足して亡くなるかたは本当に多いです。橋田さんも亡くなる前に自宅に戻りましたが、人生90年生きようが、最期の一日でも自宅に戻って満足して亡くなることが大事です。しかもいまはコロナで病院では面会すらできず、自宅に連れて帰って看取る件数が増えている。私のクリニックでもここ1年で2割ほど、自宅での死を選ぶかたが増えました」
家族と同居していなくても、自宅で死ぬのが望ましい。
「ひとり暮らしには『孤独死』のイメージがあるが、必ずしもそうとは限りません」
こう指摘するのは、『うらやましい孤独死』(フォレスト出版)の著者で医師・医療経済ジャーナリストの森田洋之さんだ。
森田さんの知る北海道在住の80代男性はずっとひとり暮らしだったが、亡くなる直前まで大好きだった酒を飲み、近所に住む友人と楽しく語り合っていた。
男性は自宅で急逝し、3日後に遺体で発見されたが、地域の人々は「うらやましい死に方だ」と口々に言った。
「配偶者が亡くなったり未婚だったりして、高齢になってひとり暮らしをする可能性は誰にでもありますが、寂しい孤独死を迎えるとは限りません。むしろ病院や施設に入居した方が食事や行動を制限され、心身ともに衰え苦しんで死ぬケースが多い。ましてやいまはコロナで誰とも面会できず、ストレスがたまりやすくなっています」(森田さん)
※女性セブン2021年6月10日号