【書評】『ガウディ』/鳥居徳敏・著/ちくまプリマー新書/1078円
【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)
スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリアは「未完の聖堂」として知られる。貧者の喜捨によって建設される教会が計画され、起工式が行われたのが一八八二年。以来、幾度もの建設中断があり、ようやく二〇二六年完成予定と発表されたが、新型コロナウイルスの影響により、未定となった。
三つの世紀をまたいで建設される聖堂は、私たちに夢を与え続けてくれた。着工の翌年、二代目建築家に就任したアントニ・ガウディ(一八五二~一九二六)による独創的な建築様式は圧倒的な魅力に満ちている。
彼は建築の独創性とは、起源に戻ることでもあると語り、自然の洞窟なども観察して建築に取り入れる一方、近代的科学手法を採用するなどし、今日の建築にも多大な貢献をしている。ガウディが存命中に実現できたのは全体の四分の一ほどだと言われ、彼に続く世代が建設を継承していった。
本書はガウディ研究の第一人者として世界的に知られる著者が、初心者にもわかりやすい文章でガウディの生涯や作品、思想を丹念に描く。〈ガウディがガウディになり得た第一の条件は、人生に与えられた時間のすべてを建築に費やしたことにあります〉と著者が述べるように、ガウディは「忍耐」と「努力」の人だった。
彼は、金属加工を扱う職人の息子としてカタルーニャ地方で生まれた。独自の文化・言語の復活と地方自治の確立などを目指す「カタルーニャ主義」の全盛を迎える時期だ。また経済的活況を背景に、建築界では多彩な潮流と様式があらわれた。建築家として出発したガウディに着目し、パトロンとなった新興貴族も存在した。
さらに詩人や神父らがガウディの精神的支柱ともなる。〈聖堂を完成させることよりも完成できない聖堂に身を捧げることの方がより尊いと示唆〉されたガウディが禁欲的な生活に徹していたある日、路面電車に接触し三日後に息を引き取った。遺体が埋葬されるサグラダ・ファミリアへ向かう霊柩車をあまたの市民が取り囲んだ。
※週刊ポスト2021年6月11日号