特に後年は酒が入る度に怒り出し、周囲と衝突した。
「ただ彼にも彼なりの怒る理由はあって、普通大人になると押し殺される感情がそのまま出ちゃうんですね。植草甚一や田中小実昌など、変なじいさん作家の系譜を継ぐ彼は、イイ感じのじいさんになれたと私は思う。別に真っ直ぐ生きられなくても面白いことはみつかる、黴臭い古書の中にもポップは隠れてるよって教えてくれる、横町のじいさん的な存在に、ツボちゃん自身、なりたかったと思うので」
人に懐き、町に懐かれ、何でも読んでいるのに〈地図が読めない男〉だったりした横顔を、事実や場面の連なりの中に専ら描く。そんな抑制の利いた筆致一つにも、かつて坪内祐三を構成した分子は息づき、こうやって歴史は継がれていくんだなあと、妙な感想を持った。
【プロフィール】
佐久間文子(さくま・あやこ)/1964年大阪市生まれ。京都大学文学部卒業後、朝日新聞社入社。文化部記者、「AERA」「週刊朝日」編集部を経て、2008年より書評欄編集長。2011年に退社し、現在は文芸ジャーナリスト。著書は他に『「文藝」戦後文学史』。坪内氏とは1997年に出会い、1998年末に同居、その後結婚し、20年以上を共に過ごす。「彼はその間、ずっと日記を雑誌に発表している珍しいひとなので、私の記憶とすり合わせれば大抵の事実関係は確認できて、助かりました」。165cm、A型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年6月18・25日号