ビジネス

日本人の南極上陸110年 鉄道技術が極地での挑戦を支える側面も

南極・昭和基地での第60次、第62次越冬交代式。高床式の建物が見える(時事通信フォト)

南極・昭和基地での第60次、第61次越冬交代式。高床式の建物が見える(時事通信フォト)

 ノルウェーの探検家ロアール・アムンゼンが率いる探検隊が、南極点に初めて到達したのが1911年12月14日。そして日本の鉄道が新橋-横浜間に開通したのは明治5(1872)年で、もうすぐ始まりから150年になろうとしている。南極と鉄道、まったく関わりがなさそうなこの二つの歴史が、極地で研究をすすめるためには欠かせない部分で交わっている。ライターの小川裕夫氏が、南極基地でも生きる日本の鉄道技術についてレポートする。

 * * *
 人類が南極点に初めて到達したのは、1911年。日本人初の南極上陸も同年に達成。今年は110周年という節目にあたる。

 日本人で初めて南極に上陸した白瀬矗(しらせ・のぶ)は南極点に到達できなかったが、帰国後に国民から大喝采を浴びた。その後、長い空白期間を経た1955年、政府の閣議決定によって日本は再び南極へ挑戦することになる。翌1956年、第一次南極観測隊が日本を出発。それからの日本は一時的な中断を挟むものの、断続的に南極観測隊を送り続けてきた。

 どこの国にも属さない南極では、その過酷な環境下で各国が科学・学術研究を進める。南極への挑戦を決めたものの、手探り状態でプロジェクトを進めなければならなかった当初の日本も、科学者・技術者が力を結集。技術・知識を応用して南極生活を少しでも快適に過ごせるように工夫を凝らした。そして、南極観測の長い歴史の中で、鉄道で培われた技術も多用されている。

「新幹線式の循環トイレは、観測船『ふじ』が就航した1966年の第7次隊から1999年まで使われていました」と教えてくれたのは、国立極地研究所の広報室担当者だ。

 日本が南極大陸に築いた最初の基地「昭和基地」のトイレは、汲み取り式になっていた。第7次隊から観測船「ふじ」が就航。それまでの観測船「宗谷」と比べると「ふじ」は積載量が増加しただけではなく、大型の荷物を分解せずに輸送することが可能になった。

 それまで昭和基地のトイレは離れのように独立した形で棟外に設置されていたが、大型の発電機を持ち込めるようになったことでトイレは棟内に設置された。

 トイレが棟内に移設されるとともに、新たなトイレは南極の環境保全と隊員たちの衛生に配慮した新幹線式の循環トイレへと切り替えられた。これが南極史上初の水洗トイレとされている。

 新幹線トイレは空気の気圧差を利用して汚物をタンクまで運ぶ真空吸引式を採用している。一般的な水洗トイレと比べて、新幹線式のトイレは水の使用量が少ない。南極生活では、なによりも水は貴重な資源。一滴たりとも無駄にはできない。

 1983年の第24次隊が130キロリットルの貯水槽を設置するまで、南極での生活は厳しい水のやりくりがなされていた。そうした事情も、水を無駄に使わない新幹線式トイレの導入を後押しした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

愛子さま
【愛子さま、日赤に就職】想定を大幅に上回る熱心な仕事ぶり ほぼフルタイム出勤で皇室活動と“ダブルワーク”状態
女性セブン
テレビや新聞など、さまざまなメディアが結婚相手・真美子さんに関する特集を行っている
《水原一平ショックを乗り越え》大谷翔平を支える妻・真美子さんのモテすぎ秘話 同級生たちは「寮内の食堂でも熱視線を浴びていた」と証言 人気沸騰にもどかしさも
NEWSポストセブン
行きつけだった渋谷のクラブと若山容疑者
《那須2遺体》「まっすぐ育ってね」岡田准一からエールも「ハジけた客が多い」渋谷のクラブに首筋タトゥーで出没 元子役俳優が報酬欲しさに死体損壊の転落人生
NEWSポストセブン
嵐について「必ず5人で集まって話をします」と語った大野智
【独占激白】嵐・大野智、活動休止後初めて取材に応じた!「今年に入ってから何度も会ってますよ。招集をかけるのは翔くんかな」
女性セブン
不倫騒動や事務所からの独立で世間の話題となった広末涼子(時事通信フォト)
《「子供たちのために…」に批判の声》広末涼子、復帰するも立ちはだかる「壁」 ”完全復活”のために今からでも遅くない「記者会見」を開く必要性
NEWSポストセブン
前号で報じた「カラオケ大会で“おひねり営業”」以外にも…(写真/共同通信社)
中条きよし参院議員「金利60%で知人に1000万円」高利貸し 「出資法違反の疑い」との指摘も
NEWSポストセブン
二宮が大河初出演の可能性。「嵐だけはやめない」とも
【全文公開】二宮和也、『光る君へ』で「大河ドラマ初出演」の内幕 NHKに告げた「嵐だけは辞めない」
女性セブン
昨年ドラフト1位で広島に入団した常広羽也斗(時事通信)
《痛恨の青学卒業失敗》広島ドラ1・常広羽也斗「あと1単位で留年」今後シーズンは“野球専念”も単位修得は「秋以降に」
NEWSポストセブン
品川区で移送される若山容疑者と子役時代のプロフィル写真(HPより)
《那須焼損2遺体》大河ドラマで岡田准一と共演の若山耀人容疑者、純粋な笑顔でお茶の間を虜にした元芸能人が犯罪組織の末端となった背景
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【ケーキのろうそくを一息で吹き消した】六代目山口組機関紙が報じた「司忍組長82歳誕生日会」の一部始終
NEWSポストセブン
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
森高千里、“55才バースデー”に江口洋介と仲良しショット 「妻の肩をマッサージする姿」も 夫婦円満の秘訣は「お互いの趣味にはあれこれ言わない」
女性セブン
元工藤會幹部の伊藤明雄・受刑者の手記
【元工藤會幹部の獄中手記】「センター試験で9割」「東京外語大入学」の秀才はなぜ凶悪組織の“広報”になったのか
週刊ポスト