2019年のアジア選手権で日本人トップとなる16位に入り、東京五輪の代表に内定したが、新型コロナウイルスの感染拡大によって東京五輪は1年延期に。人里離れた山奥や古峯神社の敷地内で練習する石原には、技術を磨くという点において影響はなかった。
だが、次第に五輪そのものの開催が危ぶまれ、また開催に反対する声が高まるにつれ、集大成の場を失うことも覚悟した。
「去年、五輪が延期になったことで、二度あることは三度あると、笑えない話になってしまった。史上最も五輪にツイていない男の娘もツイていなかったとなるのかなと(笑)」
宙に放たれたクレーを撃ち抜くクレー射撃に求められる身体能力は、単純な身体の強さや俊敏性といったものよりも、「周辺視野と集中力、そして環境に対応する能力」だと石原は言う。
「クレーの動きを予測しながら、その周辺にも目を配るのが周辺視野。当然、視力が大事になるんですが、私は視力が悪いから度付きのサングラスを使っています。天気や空の色によってクレーが見えにくくなることがある。サングラスの選択が重要なんです。また、雨や風によってクレーの動きが急激に変化するので、その対応力も必要になる」
スポーツは競技によってピークを迎える年齢に違いがある。クレー射撃の場合も適齢期はあるのだろうか。
「年齢ではなく、競技を始めてから15年から20年で、ピークを迎えると言われています。人間の集中力が続くのがその期間だと言われているんです。現在の私の競技歴がちょうどそれぐらいになる。神様に仕える身としては、神様がいることを信じ、自分の力を信じ、射撃がうまくいかなくても“大丈夫”と信じる力。それが強みになるのかな」
84代目宮司の父は“神職スナイパー”と呼ばれたが、その異名を受け継いだ石原は、東京五輪後は競技を続けながらいよいよ85代目を継ぐ準備にかかる。
◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)