ビジネス

派遣社員に甘んじる40代男性が「追い出し部屋」で抱く未来への不安

派遣、非正規で働くのは不本意だったが選べなかった(イメージ)

派遣、非正規で働くのは不本意だったが選べなかった(イメージ)

 リーマン・ショックによる派遣切りで大量の失業者が出現し、その結果、うまれた大勢の生活困窮者のための避難所「年越し派遣村」が話題になったのは2008年から2009年の年末年始のことだった。これ以後、見過ごされがちだった非正規労働者にも労働者としての権利があり、守られるべき人権があるという共通認識が広まったはずだった。ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって経済が不安定になったことで、雇用どころか貧困と社会不安の調整弁に非正規労働者がなっている現実がある。ライターの森鷹久氏が、コロナ禍によって厳しい現実に直面させられ、追い出し部屋に配置転換された派遣社員の本音と諦め、怖れについて聞いた。

 * * *
 コロナ禍では様々な分野で「分断」が進んだと言われている。世代間の断絶、人種間トラブル、貧富の差の拡大など、繋がっているはずの同じ社会にあるいくつもの溝が深くなり、それらが社会問題となりつつあるニュースを見ない日はない。日本では、「派遣」という働き方の人々たちが直面させられている彼我の差が、もっとも身近で、かつ深刻な分断の一つなのではないだろうか。

「派遣なのは自分で選んだからだ、と言われますが、そんなことはないと言い続けるのも疲れました。コロナ禍になって真っ先に出勤を減らされ、私より少し上の世代は完全に派遣切りされて職場を去りました。他の会社でも派遣切りが相次いでいるのに、ほとんど報道されませんし、救済もない。コロナ禍前であればもう少し問題視されたはず」

 神奈川県内の機械製造工場に勤務する派遣社員・緒方一平さん(仮名・40代)は、コロナ禍前から「派遣で働く」ということ自体に疑問を持っていた。それなのに緒方さんが派遣社員に甘んじているのは、新卒時の就職がうまくいかなかったことに起因している。就職氷河期ど真ん中と言われる世代より、若干年齢は下だが、都内の中堅私大卒業を控え、待っていたのは選択の余地なし、の就職活動だった。

「仕事が全くないわけではありませんが、長く勤務できそうな会社があまりない、と感じました。新卒で飲食店チェーンに入社しましたが、10年勤めても給与はほとんど上がりませんでした。昇進をして役職などがついても、人数が多すぎる上の世代のために新たなポストが続々作られ、私たちの待遇はヒラ同然のまま。努力しても報われないことに嫌気がさして辞めたんです」(緒方さん)

 新卒で入った会社を辞めて30代前半で転職活動を始めたものの、特別な資格を持っているわけでもないため、またしても働き口を見つけるのに苦労した。なんとか不動産系の営業マンに就職できたが、その会社は高齢者を狙った詐欺同然の販売方法を展開しており、耐えきれなくなって半年で辞めた。

「選ばなければ仕事がある、というのは過去の話。今は就職できても変な会社、いわゆるブラックしかない。そうじゃないところを選ぶとなると、結局派遣に行き着く」(緒方さん)

関連記事

トピックス

「鴨猟」と「鴨場接待」に臨まれた天皇皇后両陛下の長女・愛子さま
(2025年12月17日、撮影/JMPA)
《ハプニングに「愛子さまも鴨も可愛い」》愛子さま、親しみのあるチェックとダークブラウンのセットアップで各国大使らをもてなす
NEWSポストセブン
SKY-HIが文書で寄せた回答とは(BMSGの公式HPより)
〈SKY-HIこと日高光啓氏の回答全文〉「猛省しております」未成年女性アイドル(17)を深夜に自宅呼び出し、自身のバースデーライブ前夜にも24時過ぎに来宅促すメッセージ
週刊ポスト
人の出入りが多く流行っていたという火災があったサウナ店
《夫婦が閉じ込められ…》月額39万円の高級サウナ店での火災でサウナーたちに広がる不安 彼らはなぜ\\\"避難シミュレーション\\\"を議論するのか
NEWSポストセブン
今年2月に直腸がんが見つかり10ヶ月に及ぶ闘病生活を語ったラモス瑠偉氏
《直腸がんステージ3を初告白》ラモス瑠偉が明かす体重20キロ減の壮絶闘病10カ月 “7時間30分”命懸けの大手術…昨年末に起きていた体の異変
NEWSポストセブン
日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《独占スクープ》敏腕プロデューサー・SKY-HIが「未成年女性アイドル(17)を深夜に自宅呼び出し」、本人は「軽率で誤解を招く行動」と回答【NHK紅白歌合戦に出場予定の所属グループも】
週刊ポスト
世間を驚かせたメイプル超合金のカズレーザー(41才)と二階堂ふみ(31才)の電撃“推し婚”
【2025年・有名人の結婚&離婚を総決算】何かと平和な「人気男性タレントと一般女性の結婚」、離婚決断が女性からの支持につながった加藤ローサ
女性セブン
米倉涼子
《米倉涼子の自宅マンション前に異変》大手メディアが集結で一体何が…薬物疑惑報道後に更新が止まったファンクラブは継続中
火事が発生したのは今月15日(右:同社HPより)
《いつかこの子がドレスを着るまで生きたい》サウナ閉じ込め、夫婦は覆いかぶさるように…専門家が指摘する月額39万円サウナの“論外な構造”と推奨する自衛手段【赤坂サウナ2人死亡】
NEWSポストセブン
自らを「頂きおじさん」と名乗っていた小野洋平容疑者(右:時事通信フォト。今回の事件とは無関係)
《“一夫多妻男”が10代女性を『イヌ』と呼び監禁》「バールでドアをこじ開けたような跡が…」”頂きおじさん”小野洋平容疑者の「恐怖の部屋」、約100人を盗撮し5000万円売り上げ
NEWSポストセブン
ヴァージニア・ジュフリー氏と、アンドルー王子(時事通信フォト)
《“泡風呂で笑顔”の写真に「不気味」…》10代の女性らが搾取されたエプスタイン事件の「写真公開」、米メディアはどう報じたか 「犯罪の証拠ではない」と冷静な視点も
NEWSポストセブン
来季前半戦のフル参戦を確実にした川崎春花(Getty Images)
《明暗クッキリの女子ゴルフ》川崎春花ファイナルQT突破で“脱・トリプルボギー不倫”、小林夢果は成績残せず“不倫相手の妻”の主戦場へ
週刊ポスト
超有名“ホス狂い詐欺師風俗嬢”だった高橋麻美香容疑者
《超有名“ホス狂い詐欺師風俗嬢”の素顔》「白血病が再発して余命1か月」と60代男性から総額約4000万円を詐取か……高橋麻美香容疑者の悪質な“口説き文句”「客の子どもを中絶したい」
NEWSポストセブン