「水曜スペシャル」(NET=現・テレビ朝日)の枠で中継された調印式。猪木の挑発にリアクションを見せるアリ(撮影/山内 猛)
〈三十億円興行失敗か〉
〈スーパー茶番劇〉
翌日の主要紙は酷評し、新日本プロレスには試合の実現などのために積み重なった巨額の債務が残った。
この試合が再評価される機運が高まったのは1990年代後半。日本で総合格闘技(MMA)のイベントが開催され、人気を博するようになってからである。
リアルファイトにおいて、特有の膠着状態に陥りやすいことが国内外のファンに認知されると、猪木vsアリはショーの一環としてのエキシビションではなく、リアルファイトであったとの評価が定着した。それは試合映像が広く普及した近年、さらに確かなものとなった。
当時、プロレスラーと真剣勝負する必要のなかったアリが、最終的に大きなリスクを取ってリングに上がっていたことが分かったとき、ファンは初めて猪木とアリの「友情」の一端を理解することができたのだ。
「世紀の凡戦」のなかから、時代を先取りした異質性が発見されるまでには長い時間がかかった。その奥行きの深さこそが、いまなおこの試合が語り継がれるゆえんなのかもしれない。
試合はドロー決着。多くのメディアは「世紀の凡戦」と酷評したが、試合内容は再評価され、アリは22年後、猪木の引退試合に駆けつけた
取材・文/欠端大林
※週刊ポスト2021年7月9日号