2018年に大阪メトロが策定した夢洲駅タワービルのイメージ図。総工費1000億円とも言われていた
万博開催に駅の開業を間に合わせるという事情を考慮すると、夢洲とは海底トンネルで繋がっている、人工島「咲洲(さきしま)」にある大阪メトロ中央線のコスモスクエア駅から延伸させるのが現実的だろう。
だが、地下鉄の延伸は莫大な建設費が必要になる。万博輸送という大義名分があるから、路線を延伸させることは理解を得られやすい。しかし、夢洲駅は、近鉄が相互乗り入れをするのか否か、京阪が延伸するのか否かも重要になってくる。なぜなら、それらの要素によって、駅の構造や線路・ホームの規模が変わってくるからだ。駅の構造は後から付け足していくこともできるが、それでは不経済になる。
近鉄・京阪については今後の成り行き次第だが、夢洲駅タワービルは過剰な投資になるとの判断から、早々と計画はお蔵入りとなった。
「夢洲は万博会場になるわけですが、その跡地をIRとして開発する計画がありました。ところがIRの計画が進まず、夢洲駅のタワービルは採算性が不透明になりました。そのため、タワービルの計画はなくなりました。大阪の将来を考えれば、夢洲を開発していく方向性は変わりません。大阪メトロも地域に貢献していきたいという気持ちは変わっていませんので、何らかの形で開発に参加できればと考えています」(大阪メトロ広報担当者)
大阪は、カジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を盛んに呼びかけていた。特に、行政が積極的に誘致に動いていたことを覚えている人も多いだろう。IRを誘致していた候補地が夢洲だった。コロナ禍によって、カジノ事業そのものが不透明になり、IRはあやふやになった。
夢洲駅タワービルは、そうした理由から幻に終わったとされる。だが、最初から無理ゲーだったのではないか? という声も囁かれている。なぜなら、夢洲駅の予定地は大阪市が所有している土地なので、大阪メトロが独断でタワービルを建てることはできない。
報道で計画を知った担当部局
権利関係を考慮すれば、大阪市の許可が必要になる。ところが、肝心の大阪市は許可どころか大阪メトロから夢洲駅タワービル計画が発表されることすら知らされていなかった。
「夢洲駅タワービルは発表直後から反響が大きく、たくさんの問い合わせをいただきました。同地は市が所有する土地ですが、件のタワービルは市が策定した計画ではありません。あくまでも大阪メトロが発表したものです。担当部局もテレビ・新聞等の報道で計画を知りました。事前に連絡はありませんでしたから、問い合わせをいただいても説明ができなかったのです」と話すのは大阪市経済戦略局国際博覧会推進室の担当者だ。
事前に連絡や相談をせずに会見で公にしてしまう。本来なら、そんなことはあり得ない。ところが、最近は府知事や市長が記者会見で話す内容を役所の担当部局が知らされていないことが増えている。昨年8月のイソジン会見は、その最たる例といえる。
大阪市と大阪メトロの間で齟齬が生じているところからも、当初から夢洲駅タワービルは無理筋だったことがうっすらと窺える。吉村市長(当時)が見切り発車で発表した夢洲駅タワービルは、市の担当部局が把握していないこともあり、その後は議論らしい議論もなく、約1年で立ち消えた。
こうして夢洲の開発計画に狂いが生じたわけだが、計画が狂ったのは地域開発の目玉だった夢洲駅に付属するタワービルだけではない。夢洲駅そのものにも黄信号が灯り始めている。