大阪・京橋駅の北側、庶民的な店が並ぶ新京橋商店街、ローマの石像を模した“真実の口”から3分ほど歩くと『オカノ酒店』はある。
重厚な煉瓦造りの酒屋と壁を隔てた入り口に、「立呑み処」と書かれた暖簾が揺れ、その奥で2代目女将の池田幸子さん(75歳)が長男の妻、由希さん(50歳)と店に立つ。
「女将とお嫁さん、女ふたりで仲良うやってはるアットホームな店や。わしら開店と同時に来る4時から組。リタイア世代が多いからのんびり飲めて最高やね。居心地がいいから友達を連れてくると皆気に入る自慢の店」(60代、不動産業)
「毎日3時50分に家を出て、4時に着いたらまず暖簾出すのが俺の仕事やねん。なんやわからんけどいつのまにかやってん。女将がたまねぎないっていうたら商店街に買い出しも行くしなあ。
わしも寂しいひとりもんやから、なんかあったときの連絡先を店に預けとる。毎日来とった客が急に来なくなったとき、様子見に行ってくれたこともある。地元客をいつも気にかけてくれはる、自慢の美人女将や」(60代)。
4時から組の面々が嬉しそうに酒を傾ける角打ち台には、「嫁入り前に調理専門学校で腕を磨いたのよ」と女将が胸をはる大皿料理が並ぶ。
じっくり炊いたいわしの煮付け、色鮮やかなグリーンピースの卵とじと、愛情も栄養もたっぷりだ。
「今日の日替わりなんやろなって毎日楽しみやねん。ひとり暮らしやから野菜不足にならんようにな、ここで野菜炒めオーダーしたり、魚があるっていうたら煮魚してもらったりな。女将は客の好みを全部把握してはる、頭のいい人や」(元高校球児の60代)
「みんな知ってる顔ばかり。おじさん仲間が集まる憩いの場やね。女将の魅力? そりゃあ酒が強いってことやろ」(60代)
「美人っていうといてやぁ」と、てきぱきと料理を仕込みながら女将は陽気に笑う。