「男性不妊症」として最も多いのが造精機能障害、いわゆる精巣内で精子を造る機能に障害がある状態で、原因の約8割を占めているという。その代表的な治療法の一つとして精巣内精子採取術(TESE)という手術方法がある。これは射精した精液内に精子を認めない無精子症の場合に、精巣の組織から直接、精子を採取する方法で、局所麻酔下に日帰りでもできる手術だ。しかし世の中の男性で、この治療法を把握している人は恐らくかなり少ないだろう。庄医師はこう分析する。
「男性側に不妊の原因がある場合には、まず男性側の治療をすることで女性側の心理的な負担・身体的な負担を減らすことができ、さらに治療にかかる費用の負担も減る可能性が高いと言えます。こういった認識がもっと世の中に広まることで、不妊への考え方や、他者への理解度が変わっていくのではないかと思います」
そんな男性不妊をテーマに描いた漫画がある。『不妊男子』という作品(ビッグコミックスペリオール・ダルパナ連載中)だ。主人公は仕事も私生活も順風満帆な30代前半のサラリーマン男子。しかしある日、妻が抱える妊娠に対する切実な悩みを知ることから、思わぬ展開へ……というストーリーだ。ではなぜ今、このテーマを漫画で描こうと思ったのか。著者である玄黄武(げんこうぶ)氏が語る。
「“男性不妊”をテーマに選んだのは、今日、妊娠・出産における“男性の本音”が、漫画を始めとする創作物において圧倒的に描かれていないと感じたからです。『不妊男子』という連載を通じて〈人はなぜ子供を作るのか?〉という答えに辿り着きたいと考えています」
漫画連載を始めるにあたり様々な取材を行なった玄黄武氏だが、その中でも特に印象的だった体験談がある。
「女性のクリニックで、内診台(産婦人科検診台)に座らせて頂いたことです。座って股をクイっと開かれた時は、これまで経験したことのない羞恥心を感じました。実際、女性がこの内診台に上がり検査を受ける気持ちは、男性がまったく及ばないところでした。また、男性のクリニックでは実際に精液検査を受けました。乱暴に言えば“男は精子を出すだけ”ですが、採精室といういつもと違う環境で自分はナーバスな状態になり、驚くほど苦労することに。本来“それ”には女性と同様に、とても繊細な心の動きがあるのだと改めて分かりました。
不妊治療というのは特別なことでなく、周囲を見れば、友人・同僚・家族の話だったりします。もはや、誰もが無関係ではいられない時代です。
“不妊”という言葉が纏うどこかタブーな空気を、『不妊男子』を通じて少しでも和らげることができたらと思います」