2年ぶりに開催された全国高校野球選手権大会の開会式で整列する各校の選手たち(時事通信フォト)
親のトラブルはすぐに子供らにも伝わり、一気にチーム内で浮いてしまった上園さんの息子と、準レギュラーの同級生。そのことがどれくらい影響したかは定かではないが、毎年ベスト8までは確実だった大会ではあっけなく初戦敗退。コロナと、そして親のせいで子供が不幸になってしまったと上園さんは嘆く。
また、コロナ禍におけるアマチュアスポーツ界では、自治体や学校個別の判断で、試合開催の是非が大きく異なることが珍しくない。ある市では試合が開催されるのに、隣の小さな町では開催できないなど、子供たちや「部活親」たちにとって理不尽としか思えない判断が下ることもあった。小さな自治体では医療体制が脆弱だったり、いたしかない判断といえばそうなのだが、やはりトラブルの元になる。
「生徒の親が、SNSに試合の様子を上げたんです。もちろん、子供のプライバシーにも関わることですから、学校としてはやめて欲しいとお願いをしている。でも、応援する気持ちでアップしちゃう親御さんは必ずいるんです」
埼玉県内の小学校教諭で、バスケットボールクラブ顧問を務める古田俊彦さん(仮名・30代)は、今年6月に開催された大会で、思わぬ事態に巻き込まれた。試合翌日、学校に行くと、すぐに教頭に呼び出された。教頭が手にしていたのは、数枚のFAX用紙。無言で差し出された数枚の紙には、驚くべきことが書いてあったのである。
「コロナで試合をしている、非常識だと不気味な書体で書かれている、怪文書のようなものでした。全く身に覚えもなく不思議に思っていたら、夏の大会に参加した学校の一部に、同じようなFAXが届いていたんです」(古田さん)
校長には報告したものの、被害届を出す、という判断には至らなかったため真実は不明。とはいえ、様々な情報をつなぎ合わせて考えると、自治体や学校の判断で参加できなかったチームの子供の親の仕業ではないか、そう確信を持っているという。
「実は、SNSでも怪文書と同じような恨み節を呟いている人がいて、自分の子供のチームは試合ができないのに不公平だ、と毎日投稿していました。過去の投稿から、どのチームの親かも察しがつきました。正直腹は立ちますし、何より脅迫めいているので許せませんが、気持ちはわからないでもないんです」(古田さん)
こうしてみると、コロナ禍において「部活親」であり続けることは苦痛ばかりにも思える。が、決して多くはないものの、新たな発見もあったと話すのは、神奈川県在住の主婦・富田京子さん(仮名・40代)。
「中学生の娘の最後の大会は、感染対策で各チーム5人の保護者しか観戦できませんでした。くじ引きで観戦者が決まり、私は残念ながらハズレました。でも、あるお父さんが、ビデオチャットで試合を配信してくれるようになったんです。もちろん、生で見たい気持ちはありますが、自宅のパソコンでゆっくり応援できるし、朝早くから準備して、仕事もプライベートも犠牲にして子供にくっついていくという手間がない。非常に効率的だと思いました」(富田さん)
子供の部活を楽しみにしている親は多いだろうが、試合のたびに早朝から準備をしたり、土日返上で雑務に駆り出されるなど負担も大きかった。だが、パンデミックをきっかけに、親に負担があまりかからない形で子を応援できる、バックアップできる方法が確立するのではないか、というのだ。ビデオチャットによる配信はその最たるものだろう。子を思う親の気持ちが良い形で成就することを願うばかりだ。