「なんとかしなきゃいかんのですよ」「勝負しちゃいかんのですよ」──現役時代は中日で入団から2年連続30勝を挙げ、引退後は投手コーチとして中日や近鉄を優勝させ、監督としては1998年に横浜を38年ぶりの日本一に導いた権藤博氏(82)。現在も東海テレビなどで、忖度なしの歯に衣着せぬ評論を繰り返す解説者として活躍している。そして中継では、選手たちを「いかんですよ」と叱咤する発言もおなじみだ。一体、球界のご意見番はどんな場面で、誰に対し、1試合で何回「いかんですよ」と言うのか。ライターの岡野誠氏が今回は、「権藤博いかんですよ研究」に挑んだ。
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新人の佐藤輝明が一軍に復帰した9月23日の中日対阪神戦(バンテリンドーム)は、東海テレビの制作で解説・権藤博氏、実況・斎藤誠征アナウンサーで放送された。試合は1対1の同点で迎えた8回、阪神が大山悠輔の2点タイムリーで勝ち越す。しかし、9回に中日が阪神の抑え・スアレスを攻め、大島洋平のライト前ヒットで1点差に。1死一、三塁から代打・福留孝介がレフトフェンスの扉の隙間に入るエンタイトル二塁打を放ち、試合は3対3の引き分けに終わった。
この日、初めての「いかんですよ」は2回裏に飛び出した。中日の高橋周平がファーストゴロに終わると、権藤氏が口を開いた。
権藤氏:まあまあの当たりですけど、やっぱりもっと打球は上がらないといかんですよね。
斎藤アナ:渋い表情で帰っていった高橋です。
権藤氏:いいスイングで、いいタイミングで打ったらファーストゴロになるんですよね。悔しいと思いますよ。結構甘い球ですからね。つかまえなきゃいかん球ですけど。
まずは古巣・中日の主力に「もっと打球は上がらないといかんですよね」「つかまえなきゃいかん球ですけど」と釘を刺した。2度の「いかん」は期待の裏返しだろう。だが、3回裏に阪神の糸原健斗が中日・渡辺勝のセカンドゴロを処理すると、権藤氏はこう言った。
権藤氏:今の守備でも見てて危なっかしいですもんね。ひょっとしたら、これで内野安打にするんじゃないかっていうくらい。
斎藤アナ:そうですね。渡辺も足は速いとはいえ。
権藤氏:速いとはいえね、あれで内野安打にしちゃいかんですよ。これ人工芝ですからね。
アウトにしているにもかかわらず、糸原はダメ出しを受けた。実は2回裏には阪神のルーキー中野拓夢について、こう評していた。
権藤氏:バッテイングもいいですけど、守備がまずまずですよね。まあ、まずまずっていうのは、他の人が下手なもんですから。
斎藤アナ:はい(笑)。
権藤氏:まずまずに見えるんですよ。(チーム全体が)下手って言っちゃ悪いですけど、ホント、阪神エラー多いんですよ。
斎藤アナ:まあそうですね。
権藤氏:記録につかないエラーも多いですからね。