権藤氏は解説中にただボヤいているわけではない。視聴者を唸らせる眼力も見せている。7回表、阪神・佐藤輝明が外角高めのボール球を振ると、こう注意した。
「これを振っちゃいかんのですよ。これを振るってことはね、踏み込みがないから、ボールを見極めるところがないんですよ。これ振り出したらね、なんぼでも振るんですよ」
次の瞬間、佐藤は同じような外角高めを打って、レフトフライに倒れた。
「ね。これがね、ファールにならないってところが良くないんですよ。あれくらいのボールを打ったら、ファールにならなきゃいかんのですよ」
結果が出た後のコメントではなく、事前に予測してピタリと当てる。これこそ、解説者の理想像だろう。9回裏にも同じような場面があった。中日は阪神の抑え・スアレスを攻め立て、1死一、三塁と同点のチャンスを迎えた。代打の福留孝介が3ボール1ストライクからの159キロの高めのボール球を強振してファールにすると、権藤氏はこう言った。
「あの高さは苦しいですよ。誰が打っても苦しいですよ。ボールですもんね。積極的にいくっていうのはいいんですけど、まだ低い球を狙ったら(いい)。あの球には負けますね。だから、どこにくるかですよ、次の球が。ベルトから上に来るか、下に来るか。それで勝負決まるんじゃないですか」
福留はフルカウントからの外角低めをレフトへ二塁打。中日が土壇場で同点に追い付くと、権藤氏は「やっぱりね、ベルトから下ですよね」と総括した。試合中「いかんですよ」と諭すだけではない。82歳になった今も、権藤博氏の眼力は全く衰えていない。
■文/岡野誠:ライター。松木安太郎研究家、生島ヒロシ研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)は丹念な文献調査、忌憚のないインタビューなどで話題に。