個性的な役どころも柔軟に演じる(c)2021 NEOPA / fictive
デビューから4年という短期間で、参加する作品ごとにさまざまな顔を見せてきた古川。次世代を担うオールスターキャストによる映画『十二人の死にたい子どもたち』では、ゴスロリファッションに身を包み、特別に個性の強いキャラクターを熱演。彼女の演技が印象に残っている人も多いのではないだろうか。オーディションにより抜擢され、同世代ながらすでに長いキャリアを誇る北村匠海(24才)や杉咲花(24才)らと並んで演技合戦を繰り広げた。デビューから1年でこのポジションを得たことは、古川自身の実力だけでなく、業界の期待度の高さも証明していたと思う。
テレビ作品では、朝ドラ『エール』(NHK)でヒロインの娘役という大役を担い、ドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)での中国人“スー”役や、将来に悩む若者たちの姿を描いた『コントが始まる』(日本テレビ)では、年少ながら面倒見の良いつむぎ役を好演していたことも記憶に新しい。
『偶然と想像』では、濱口監督の演出術によって表れている古川の“真価”に注目だ。芽衣子もまた個性が強く、対面する相手によっては自己中心的な性格だと捉えられる人物。矢継ぎ早に繰り出される言葉はマシンガンのようで、相手を鋭く突き翻弄する。一度耳にしたら頭から離れない古川の個性的な声質も相まって、一言発するだけでシーンを支配してしまうような力を感じる瞬間も多々ある。
しかし古川は、こんな人物を肩の力を抜いて演じているように思う。本作の特徴として、 感情を抜いてセリフを口にする「棒読み」とも思える濱口監督の演出法がある。これにより、俳優たちが用意してきたものでなく、“その瞬間”に生じた生々しい空気感を映画に収めることに成功しており、登場人物たちがどう動くのかが予測できない。芽衣子の突飛な言動には、この演出法が有機的に働いていると思う。彼女こそ最も感情がフラットであり、動きが予測できず、濱口監督の挑戦的な演出術が最大限に活かされていると感じるのだ。
新進気鋭の若手俳優である古川の強みは個性だけでなく、このような特殊な演出法にも適応できる柔軟性でもあるだろう。世界的に注目度の高い本作で、先陣を切る好演を見せている。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。