遠ざかっていく北方領土
太平洋戦争が過去のものになるとともに高齢化が進み、元島民の平均年齢は86.5歳になった。約5600名の元島民に残された時間は多くない。
「明日は我が身、というくらい私も年を取りました」と鈴木さんが語る。
「年に1度ほど、元島民が全国から集まって顔を合わせる機会がありますが、段々と年を経るとともに皆さん高齢になり、何人も亡くなっています。北方領土返還をあきらめる思いは微塵もありませんが、返還がいつ実現するのか、もうダメなのかという不安になることはあります。絶対にあきらめないけど、そうした不安がつきまとっています」(鈴木さん)
今回、話を聞いた6人の元島民の誰ひとりとして、北方領土返還を断念していない。だがウクライナ侵攻を受けて、その心は激しく揺れている。古林さんはこう言葉を絞り出した。
「ウクライナ侵攻は残念のひとことに尽きます。本当に断腸の思いです。生まれ育った島が、どんどん遠のいていきます」
距離は近いはずなのに、遠ざかっていく北方領土に帰れる日は来るのか。先の戦争を忘れた日本人がウクライナ侵攻を遠い国の出来事と感じる中、愛するふるさとの返還を求める元島民の葛藤が続く。【前後編の後編。前編から読む】
◆取材・文/池田道大(フリーライター)、写真提供/公益社団法人千島歯舞諸島居住者連盟