淡路島でキッチンカーを営むイリーナさん
イリーナさんの長男は、友達とのグループチャットで戦争の話題になった時、「プーチン、最低!」と書き込んだという。
「おかげで戦争のことでいじめに遭ったり、差別的な行為を受けることはないようです。私自身もママ友と戦争の話になった時には、臆さず反対派だと伝えるようにしています」(イリーナさん)
戦争の原因を議論
イリーナさんはロシアのウクライナ侵攻以降、キッチンカーの車体にロシア語混じりの「HET BOЙHE(ニェット・ヴァイニェ)=戦争は、いらない」という貼り紙を貼って、島内を巡っている。
「ネットで誹謗中傷を受けたことはありましたが、店に届くのはほとんどが応援や温かいメッセージばかりです。いまの私にできることはなんとかウクライナを支援すること。ウクライナへの寄付を募るイベントにも、このキッチンカーで参加する予定です」(イリーナさん)
都内の大学院で政治学を学ぶロシア人留学生の20代女性・クシューシャさんも、周囲の人たちの理解に助けられていると話す。
「アカデミックな場所だからという理由もあるとは思いますが、大学の友人は日本に住むロシア人の状況をわかってくれているので、ロシア人というだけで嫌がらせや冷たい反応をされることはありません。『家族が無事だといいね』と毎日のように気遣ってくれるので、本当にありがたい。
『プーチンを選挙で選んだのはロシア人だから、ロシア人に責任がある』という声があることは知っていますが、いまのロシアは国民の意思が政府にまったく反映されていない。友人だけでなく様々な世代の人が、戦争以前からプーチンの強硬な姿勢に批判的でした」
キャンパス内では、ウクライナ侵攻やロシア国内の状況などについて、日本の学生から熱心に質問を受けることもあるという。
「『この戦争は現地ではどう捉えられているの』とか、『ウクライナとロシアはもともと兄弟のようなイメージだったのか』とか。学生たちは、私個人とプーチンやロシア政府とを完全に別の存在として捉えてくれるので、こうした質問を受けてもロシア人であることによるストレスはほとんど感じません。日本の学生は穏やかで優しいし、こんな時でも学校に来れば楽しく過ごせるので助かっています。
私自身、ロシアとウクライナの地政学的な観点や、言語の類似性、戦争の持つ経済的な側面なども含めて議論し、“私の目線から見えるロシア”をありのままにみんなに伝えていきたいと思っています」(クシューシャさん)
取材協力/竹中明洋(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2022年4月29日号