今は趣味のゴルフを楽しめるようになったという寺澤さん。すい臓がんと判明しても悲観したり恐れ過ぎることなく、医師の指示のもと病と向き合うことが大切なのだ。
国際未病ケア医学研究センターの一石英一郎医師が指摘する。
「検査を嫌がる人は少なくありません。3年ほど前、胸やけと胃もたれを訴える80代男性にMRI検査をした際、ごく小さいがすい臓がんになる可能性がある『膵嚢胞』が見つかり、半年に1度の検査を勧めました。しかし男性は『もう歳だから検査したくない』と拒否し、その約1年後に末期のすい臓がんで他界されました。このがんは本当に進行が早い。強く検査を勧めればよかったと今でも後悔しています」
医師の指示と検査を疎かにしてはいけないのだ。
いい病院、医師の探し方
北海道在住の松本眞由美さん(64)は、9年前に55歳でステージIVaと診断され、夫婦ですい臓がんと闘った。
「夫の家族健康診断で、その年は血糖値が高く出て精密検査の案内が送られてきました。小さな病院でしたが糖尿病の専門医に診てもらうと、すい臓がんの腫瘍マーカーに反応があり、後日総合病院で検査することに。その数日間に夫がすい臓がんに関するあらゆる情報を懸命に集めてくれました」(松本さん)
松本さんの夫は、その2年前に友人をすい臓がんで亡くしていた。「俺を一人にしないでくれ」と、すい臓がんの患者会である「パンキャンジャパン」などに連絡し、すい臓がんの症例が多い札幌市の手稲渓仁会病院を教えてもらった。
「当初の病院をキャンセルして確定診断を受けに行きました。その病院に変更したことで、すい臓がんで有名な先生に診てもらえました。ステージIVaと判明し、手術が可能と診断されましたが、当時は珍しい手術前に抗がん剤治療を行なう『術前化学療法』を勧められました。すい臓がんは手術をしても再発の可能性が高く、『先に抗がん剤でがんを小さくすれば手術がしやすくなり、再発のリスクも減る』との説明を受け、試すことにしました」(松本さん)
抗がん剤の「ジェムザール」と「TS-1」による化学療法を2か月半続け、「膵体尾部脾臓摘出手術」を受けた。すい臓の3分の2と脾臓を切除する手術が終わり、目を覚ますと病院のベッドの横で息子が大粒の涙を流していた。
「『ああ、助かってよかった』と安堵しました。今振り返って思うのは、ネットに溢れる情報ではなく、病院や患者会といった情報提供元が信頼できる正しい情報を得ることの大切さです。私も最初は“すい臓がんは怖い病気”という漠然とした知識しかありませんでしたが、病気を正しく知ることが重要。そうすれば、医師の治療方針も理解できます」(松本さん)
確かな情報を得ようとする積極的な姿勢が、新しい治療法や自分に適した治療方針との出会いにつながる。順天堂大学医学部附属順天堂医院肝・胆・膵外科教授の齋浦明夫医師が語る。
「すい臓がん治療の中心は手術ですが、発見が難しく、手術可能な患者の割合は全体の2~3割程度です。しかし、近年は術前化学療法によって患者が助かる可能性が広がってきました。また、抗がん剤の併用によって、過去に7割ほどあった術後のリンパ節への転移は4割ほどに減りました」