仁保峠の急こう配をC57とC58の蒸気機関車が重連走行する様子をカメラでおさめようと鉄道ファンが集まった。1980年(時事通信フォト)

仁保峠の急こう配をC57とC58の蒸気機関車が重連走行する様子をカメラでおさめようと鉄道ファンが集まった。1980年(時事通信フォト)

“SLやまぐち号”は多くの家族連れでにぎわうようになるが、国鉄が分割民営化して山口線はJR西日本管内の路線となる。そのため、JR東日本は自社管内でSLの運行を開始。これにより、高崎駅―横川駅間の信越本線を走る“SL碓氷”(現・“SLぐんま・よこか”)や新津駅―会津若松駅の磐越西線を走る“SLばんえつ物語号”などが誕生する。

 各地でSLが人気を博す一方、SLは煤煙などの関係から都市部での運行が難しいという点や新造されることがないとの理由から、運行路線を拡大することや運転本数を増やすことは難しかった。

 こうした背景もあり、早くからSLの運行を始め、連綿と続けてきた山口線は鉄道ファンから聖地のような存在として崇められるようになる。しかし、近年になって山口線で異変が起こった。それが、マナーの悪い撮り鉄が増えたことで、地域住民から苦情が殺到したことだった。

撮り鉄トラブル解消に撮影スポットを整備

「“SLやまぐち号”は昔から運行されているので、撮り鉄が沿線に殺到することは昨日今日に始まった話ではありません。以前から撮り鉄による違法の路上駐車は問題になっていましたし、立ち小便やゴミのポイ捨て、樹木の伐採といった苦情はありました」と話すのは、津和野町商工観光課の堀重樹課長だ。

 津和野町は江戸時代から残る城下町の風情が人気で、それが観光客を呼び込んできた。城下町の面影が残る一方で、道路などの道幅は狭い。そのため、路上駐車は交通を阻害する大きな要因になってしまう。それは、地元住民の生活を脅かすものでもあった。

「それでも津和野町にとって“SLやまぐち号”は宝ともいえる観光資源ですから、町民も鉄道ファンへの理解はあるんです。路上駐車をなくす取り組みとして、町民から使っていない土地を借りて無料駐車場として開放しています」(同)

 町が町民から借りて整備した駐車場には、約30台分のスペースが確保されている。そのほかにも、町は自治会を通じて公園の駐車場も無料開放した。来街者である撮り鉄に対して、行政がここまで力を尽くすのは町民の生活を守るためという大義名分もあるが、やはり撮り鉄も一人の観光客であるとの思いが強く、おもてなしをしたいという気持ちがあるからだろう。

 こうした取り組みをしていた津和野町だが、2020年に入って“SLやまぐち号”を牽引する蒸気機関車が故障するというアクシデントに見舞われる。当初は代替の蒸気機関車を借りることで運行は継続されたが、それも2021年からはできなくなった。

 本来、“SLやまぐち号”が運転されなくなれば、沿線に撮り鉄が押し寄せることはなくなる。それにも関わらず、以前より撮り鉄が問題視されているという。なぜか?

「蒸気機関車が故障したことで“SLやまぐち号”の代替で、ディーゼル機関車が牽引する”DLやまぐち号”が運転されるようになりました。今しか”DLやまぐち号”は撮れません“SLやまぐち号”よりも珍しいということから、これまで以上に撮り鉄が殺到したのです」(同)

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