片山杜秀(かたやま・もりひで)/1963年生まれ。慶應義塾大学法学部教授
佐藤:岸田さんのやりたいことは、ひとつだけはっきりしているんですよ。それが、菅政権よりも1日でも長く権力を維持すること。そのために、支持率が上がることならなんでもやる。
片山:そう考えると岸田政権の行動原理も説明できます(苦笑)。
佐藤:岸田政権の対ロ政策で言えば、鍵になったのは3月1日に行なったプーチンへの個人制裁でした。プーチンは日本に資産を持っていない。制裁をかけても実害がないから影響は少ないだろうと日本の外務省は考えた。でも、これが間違いでした。ロシア人の発想は違う。実効性がないにもかかわらず、制裁を科すのは嫌がらせだと受け止める。つまり「岸田にケンカを売られた」と。その答えが、平和条約交渉の停止であり、岸田さんの入国禁止です。
片山:安倍元首相の遺族にはプーチンから弔電も届きました。安倍政権下なら、プーチンとの個人的な関係もあり、対ロ政策も変わっていたのでしょうか?
佐藤:2014年のクリミア併合と似た対応になったと思いますよ。ウクライナは日本と離れていますが、国際社会も日米同盟も大切だからその範囲でお付き合いしますよ、と一定の距離を置いた。安倍政権下なら、プーチンへの個人制裁はなかったはずです。
(第4回につづく)
【プロフィール】
佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ。元外交官。作家。同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕。2005年に執行猶予付きで有罪判決。近著に『日本共産党の100年』『プーチンの野望』など。
片山杜秀(かたやま・もりひで)/1963年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。専攻は近代政治思想史、政治文化論。近著に『尊皇攘夷 水戸学の四百年』など。
※小学館新書『危機の読書』巻末対談より