ライフ

【逆説の日本史】時間と空間はつながっている「日本史」「世界史」の区別は無い

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第九話「大日本帝国の確立V」、「国際連盟への道3 その2」をお届けする(第1357回)。

 * * *
 元老西園寺公望の人格と識見の形成に大きな影響を与えた「フランス革命史」いや「フランス近代混乱史」を続けたい。このあたりは、多くの日本人の教養の盲点にもなっているような気がする。一言で言えば、「一七八九年のフランス革命以降すんなりと共和政が確立したわけでは無い」のだ。

 一七八九年は日本では寛政元年、老中松平定信が「寛政の改革」を断行していたころだが、その後フランスでは皇帝ナポレオンが出現(第一帝政)し、その没落後には一八一四年にブルボン王朝が復活した。しかし、即位したルイ18世の政治はフランス革命の理念を無視した反動的なものであり、王位を継いだ弟のシャルル10世も態度を改めなかったので民衆の不満は高まっていった。

 シャルル10世は国民の不満をそらすため、一八三〇年にアフリカ大陸のアルジェリア侵略を始めた。この侵略は一応成功しアルジェリアはその後フランスの植民地となるのだが、それでも一度「革命の味」を覚えた市民の不満は収まらなかった。危機を感じた王は同年七月、議会を強制的に解散し、解散後の選挙では被選挙権を限定する勅令(七月勅令)を発し議会勢力を大幅に削減しようとしたが、怒ったパリ市民は同月二十七日、学生や労働者を中心に武力蜂起した。

 パリ市民は市街戦には慣れている。同月二十九日にはプロの兵隊を向こうに回して見事にルーヴル宮殿を陥落させた。そして市民は、革命に理解のあるオルレアン公ルイ・フィリップを新王に招聘した。結局シャルル10世は退位しオーストリアに亡命したため、「国民王」と自称したルイ・フィリップが王位に就き、ここにフランスは復古的絶対王政から立憲君主制の国となった。これを「フランス七月革命」と呼ぶ。

 しかし、新王ルイ・フィリップはブルジョアジーの権利は保護したが社会主義思想の普及とともに力を持ってきたプロレタリアート、つまりブルジョアのように資産は持たず自らの労働力を資本家に売って生活する労働者階級を無視した。選挙権を与えなかったのである。これに不満を抱いたプロレタリアート主体の革命が一八四八年に起こる。「二月革命(1848年のフランス革命)」である。これによりルイ・フィリップは国外逃亡し、フランスは再び王国から共和国になった。この体制は、一七八九年の最初のフランス革命後ナポレオンの第一帝政までの共和政に続くものだから、「第二共和政」と呼ぶ。

 だが、これで安定したわけでは無い。今度はブルジョアジーとプロレタリアートの争いが起こった。フランス革命の理念は「自由、平等、友愛」だが、「平等」を身分の平等だけで無く経済的平等まで推し進めると(それがいわゆる共産主義だが)、たとえば農民は革命以来ようやく自作農になれたのに所有する農地をプロレタリアートに奪われることになる。

 ちなみにフランスではこうした形の農地解放(大地主制の解体)があったために、農民は「持てる者」になり「持たざる者」である労働者階級と対立したわけだが、ロシアのように農奴解放が遅れた国や、日本のように明治維新でせっかく自作農を増やしたのに日露戦争に勝つためとはいえ松方財政で自作農を大量に小作人に転落させた国は、共産主義者の眼から見れば「狙い目」ということにもなる。

 というわけで、「ブルジョワ共和政」に不満を抱いたプロレタリアートは、一八四八年六月に体制打倒の反乱を起こす。これが成功していたら「六月革命」ということになったかもしれないが、失敗したので「六月暴動」と呼ばれた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

競泳コメンテーターとして活躍する岩崎恭子
《五輪の競泳中継から消えた元金メダリスト》岩崎恭子“金髪カツラ”不倫報道でNHKでの仕事が激減も見えてきた「復活の兆し」
NEWSポストセブン
米・フロリダ州で元看護師の女による血の繋がっていない息子に対する性的虐待事件が起きた(Facebookより)
「15歳の連れ子」を誘惑して性交した米国の元看護師の女の犯行 「ホラー映画を見ながら大麻成分を吸引して…」夫が帰宅時に見た最悪の光景とは《フルメイク&黒タートルで出廷》
NEWSポストセブン
メーカーではなく地域の販売会社幹部からの指令だった(写真提供/イメージマート)
《上司命令でSNSへ動画投稿》部下たちから上がる”悲鳴” 住宅販売会社では社長の意向で「ビキニで物件紹介」させられた女性社員も
NEWSポストセブン
自宅への家宅捜索が報じられた米倉(時事通信)
米倉涼子“ガサ入れ報道”の背景に「麻薬取締部の長く続く捜査」 社会部記者は「米倉さんはマトリからの調べに誠実に対応している」
香川県を訪問された紀子さまと佳子さま(2025年10月2日、撮影/JMPA)
佳子さまが着用した「涼しげな夏振袖」に込められた「母娘、姉妹の絆」 紀子さま、眞子さんのお印が描かれていた
NEWSポストセブン
米倉涼子(時事通信フォト)
《マトリが捜査》米倉涼子に“違法薬物ガサ入れ”報道 かつて体調不良時にはSNSに「ごめんなさい、ごめんなさい、本当にごめんなさい」…米倉の身に起きていた“異変”
NEWSポストセブン
きしたかの・高野正成(高野のXより)
《オファー続々》『水ダウ』“ほぼレギュラー“きしたかの・高野 「怒っているけど、実はいい人」で突出した業界人気を獲得 
NEWSポストセブン
迎賓施設「松下真々庵」を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月9日、撮影/JMPA)
《京都ご訪問で注目》佳子さま、身につけた“西陣織バレッタ”は売り切れに クラシカルな赤いワンピースで魅せた“和洋折衷スタイル”
NEWSポストセブン
米倉涼子(時事通信フォト)
《米倉涼子に“麻薬取締部ガサ入れ”報道》半同棲していた恋人・アルゼンチン人ダンサーは海外に…“諸事情により帰国が延期” 米倉の仕事キャンセル事情の背景を知りうるキーマン
NEWSポストセブン
イギリス人女性2人のスーツケースから合計35kg以上の大麻が見つかり逮捕された(バニスター被告のInstagramより)
《金髪美女コンビがNYからイギリスに大麻35kg密輸》有罪判決後も会員制サイトで過激コンテンツを販売し大炎上、被告らは「私たちの友情は揺るがないわ」
NEWSポストセブン
第79回国民スポーツ大会の閉会式に出席された秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
「なんでこれにしたの?」秋篠宮家・佳子さまの“クッキリ服”にネット上で“心配する声”が強まる【国スポで滋賀県ご訪問】
NEWSポストセブン
"殺人グマ”による惨劇が起こってしまった(時事通信フォト)
「頭皮が食われ、頭蓋骨が露出した状態」「遺体のそばで『ウウー』と唸り声」殺人グマが起こした”バラバラ遺体“の惨劇、行政は「”特異な個体”の可能性も視野」《岩手県北上市》
NEWSポストセブン