(写真/アフロ)
今回の襲名で海老蔵は「十三代目市川團十郎」ではなく「十三代目市川團十郎白猿」という名になる。「白猿」は五代目團十郎が晩年に使っていた俳名で、江戸時代の「猿は人間によく似ているが毛が3本足りないため人間に及ばない」という俗説にちなんだもの。五代目團十郎は祖父や父たちに自分はまだまだ及ばないという気持ちを込め、「はくえん」の音に「白猿」の文字を当てたといわれる。
海老蔵もまた、「私も父や祖父にまだまだ足もとにも及ばぬ、これからもっと精進していこうという気持ちも含め、白猿を名乗ることにしました」とその胸の内を語っている。「團十郎」という計り知れない重責を一心に背負うことこそが歴代團十郎の定めなのだ。
新之助から海老蔵、そして團十郎へ
また、十三代目團十郎襲名と同時に長男・勸玄が「八代目市川新之助」として初舞台を踏む。「新之助」を名乗り、その後、「海老蔵」「團十郎」と襲名していく流れは十二代目團十郎から続く。「新之助」として技術を磨き実績を積むことが、将来、大名跡・團十郎を名乗る上で重要な要素なのだ。海老蔵が新之助を襲名したのは7才のときで、2004年に海老蔵を襲名するまで約20年間、新之助として研鑽を積んできた。市川家に生を受け歌舞伎界を担っていく勸玄にとっても、新之助を名乗ることには大きな意味がある。
芸術、芸道の世界で自分の持っている知識や知恵、技術などの奥義を秘伝として伝えることを「一子相伝」という。400年以上にわたり受け継がれてきた「團十郎」の名は、この先も続いていく。歴史のバトンが渡る瞬間をこの目でしかと見届けよう。
知れば10倍楽しめる歌舞伎用語
荒事/あらごと
派手な扮装で荒々しく、ダイナミックな演技を行う、江戸で生まれた歌舞伎の代表的な演出のひとつ。
隈取/くまどり
歌舞伎の特徴的な化粧法。筋肉や血管の隆起を表しているといわれている。
口上/こうじょう
俳優が、舞台の上から、お客様に向かってするあいさつのこと。さまざまな種類があるが、襲名披露や初舞台、追善興行などで行われることが多い。
襲名/しゅうめい
俳優が名前を継ぐことを指す。歌舞伎では、俳優がある節目を迎えたときに、先祖や父兄、師匠が名のっていた名前、それぞれの家で受け継がれてきた名前を継いでいく。名前だけでなく、型なども受け継がれていくことが、歌舞伎の特徴である。
見得/みえ
荒事から始まったという演技方法のひとつで、物語の山場や幕切れ、登場人物の気持ちが盛り上がる場面において、動きを一瞬止めて印象的なポーズをとることをいう。作品によってさまざまな種類がある。
屋号/やごう
江戸時代の俳優が商人にならって屋号を使うようになったのが始まりといわれているが、いまではスター性を象徴する称号であり敬称ともなっている。
出典/歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」
取材/井上明日香
※女性セブン2022年11月10・17日号