時世を読み発信する覚悟が必要

 その老人〈原義一〉が、実は〈御饌使〉役に雇われたホームレスであり、妻を施設に入れるために全財産を失い、自身も認知症であることを、松永はシマオカと明治以来取引のある〈玉井工務店〉で聞く。社長以下を親族で固める同社では地鎮祭等の運営全般を請け負い、シマオカでも少なくない経費を支払ってきた。

 4代目社長の〈芳夫〉は、〈骨灰が染み込んでない場所は、東京では滅多にないですから〉と秋葉原の某総合施設を案内しながら語り、〈お祓い料はまけておきます〉と言って別れ際に守り袋をくれた。しかし、それでは全く間に合わないほどの怪異がやがて松永と彼の家族を襲うのである。

「脅迫ツイートにしても、その投稿を読者が現実と地続きに感じてくれなければ意味がなく、誰もが剥き出しの悪意に晒され、正気や冷静さを失う中、何とか最後は自分を理性で立て直す話にしたかったんです。

 もしこれを東京五輪前に書いていたら、松永はもっと酷い目に遭っていたと思う。ホラーには浮かれた社会を冷ます効果もありますから。物語が読む方の中で完成される以上、時世を正確に読んだ上で発信する覚悟が発信者には必要で、例えばコロナ下で最も薄れたのは公助共助ですよね。

 近頃はワクチンまで自己責任とか言い出すし、いつか自分も生活を失うんじゃないかと、頭が自助でガチガチになる。その不安に慣れるためにも、今回は仮に失うとどうなるかまであえて書き、当たり前だけど、だから人と人は助け合わなくちゃいけないってことも書いておきたかったんです」

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