(時事通信フォト)

綾瀬はるか、長澤まさみ、広瀬すずと4姉妹を演じたことも(時事通信フォト)

奈落の底へ突き落とされても…

 ただ多くの作品に出演しているだけではない。彼女の演じる役は、なぜか不幸な役が続いている。2022年の大ヒットドラマ『silent』では、目黒蓮演じる佐倉想に振られた。ろう者同士、自分が絶対に彼の隣にいると信じて疑っていなかったのに……演じた桃野奈々の恋は儚く散っていった。

 大きな不幸を抱えているというスタンスではないけれど『モダンラブ・東京〜さまざまな愛の形〜 冬眠中のボクの妻』(Amazonプライム)では、うつ病の妻に。『First Love 初恋』(Netflix)でも……(これ以上はネタバレになるので、ペンを置く)と、幸せになれない役が続いた。

 記憶を掘り起こすと、2017年放送の『監獄のお姫さま』(TBS系列)で演じた、江戸川しのぶは不幸の頂点に君臨するような役だった。好きだった男性にハメられて、刑務所行きに。獄中で出産した息子は男に取られてしまい、会うことすらも許されなかった。

 ただ夏帆さんの演技がすごいなあと感心するのは、どんなに不幸な役が巡ってきても、悲壮感が漂ってこないことだ。不幸界の奈落の底へと突き落とされても、そのままではない。ひと昔前のトレンディドラマに登場してきそうな「あの人のこと、不幸にしたら許さないよ?」と踵を返して去っていく、気の強そうな女の雰囲気でもない。内面に秘めた力で日常に戻り、次の恋に目を向けていく様子の表現が心底うまい。

「おお、また夏帆きたよ」

 なるほど……と2022年の夏帆さんを振り返ると“大活躍”以外の言葉が見つからない。そして最終的になぜ私たちの心に残るのか? と思うと、演技がうまいのである。この一言に尽きる。

 例えば『silent』の奈々。佐倉想の気持ちが、元カノの青羽紬(川口春奈)に戻っていると勘付いてしまう。女の勘とは本当におぞましい。紬が想のために手話を勉強していると知りながら、想に手話を教えたのは自分だと紬に伝える。

「プレゼント使いまわされた気持ち」
「好きな人にあげたプレゼント。包み直して他人に渡された感じ」

 意地悪なことを言うつもりも、誰かを傷つけたいわけでもないのに。つい、気持ちが溢れて、裏腹のような、心の底にある言葉を拾って、ぶつけてしまう。言っても仕方がないのに。この機微の表現がすばらしく、共感しながら涙が溢れてしまった。

 2023年は『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系列・1月8日〜放送)から、スタートする夏帆さん。きっとまた大きな印象を残す。私たちは「おお、また夏帆きたよ……」と固唾を飲んで見守る。

【プロフィール】小林久乃(こばやし・ひさの)/エッセイ、コラムの執筆、企画、編集、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。著書に、最新刊の『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)ほか、30代の怒涛の婚活模様を綴った『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ)、『45センチの距離感 -つながる機能が増えた世の中の人間関係について-』(WAVE出版)がある。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k

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