和田秀樹(わだ・ひでき)/精神科医。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。22年3月刊行の『80歳の壁』は2022年のベストセラー第1位
和田:養老先生のように生きている時間をどれだけ楽しめるかについては、(戦中生まれの)先生の世代と、団塊の世代に代表される戦後生まれの違いもある気がします。先生の世代は、それまで信じ込まされてきた教育を、敗戦で1回ひっくり返されている。対して戦後生まれは、言われたことを信じてやり続けて高度成長を成し得た経験がある。私の勝手な思い込みかもしれませんが、養老先生の世代には、戦争に負けることも含めて、運命には逆らえないという感覚があるような気がします。
養老:いや、そうですね。
和田:でも、高度成長を経験した世代には、頑張ればなんとかなる、という信念みたいなものもある。逆に若者はずっと不景気しか知らず、それはそれで別の諦め方をしているようにも見える。ただ繰り返しになりますが一貫して言えることは、「生きていることを犠牲にしてでも死ぬのが怖い」という感覚。最近は死を避ければ自由はなくていい、とする考えが先鋭化しているように感じます。医者は病気を治してくれても、生きることについて教えてはくれない。先生、いかがですか?
養老:よく言うんですが、「他人に生き方を聞くんじゃないよ」って(笑)。いつでも人生は自分で切り拓いていくしかない。
和田:「頑張ればその通りになる」と信じて生きていては、意外に難しいのかもしれませんね。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
養老孟司(ようろう・たけし)/1937年、神奈川県生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。450万部を記録した『バカの壁』は2003年のベストセラー第1位で、戦後歴代5位。ほかに『唯脳論』『手入れという思想』など著書多数
和田秀樹(わだ・ひでき)/1960年、大阪府生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。和田秀樹こころと体のクリニック院長。2022年3月刊行の『80歳の壁』は2022年のベストセラー第1位。ほかに『六十代と七十代 心と体の整え方』など著書多数
※週刊ポスト2023年1月13・20日号