ジャズは米兵の心のよりどころだった(写真は東山盛さん提供)
「母の歌が作品になったのは過去に一度だけ。『ニイマの主』という宮古島に伝わる民謡を歌った曲です。しかも、自宅を片づけていたときに偶然見つけたものの、母本人は、いつどこで録ったものかも覚えていませんでした。
ほかに残っている音源も古いものばかりだったので、せっかくなら新しく録りたいと話していたところ、今村さんから本格的なジャズマンとセッションしようというお話をいただいたんです。母はぜひやりたいと二つ返事で、すごいメンバーが集まってくれたことに感激していました」
昨年8月にリリースされたアルバムのタイトルは『A Life with Jazz』。86才にして初めて発表した齋藤さんの“デビューアルバム”である。共演したのは、ジェームス・ブラウンやポール・マッカートニーなどの作品に参加し、松田聖子のジャズアルバムを手がけたこともある世界的ピアニストのデヴィッド・マシューズ氏(80才)。さらに、各国の古謡を研究するコントラバス奏者の松永誠剛氏と、宮古島を拠点に活動するサックス奏者のmarino氏が参加した。
「レコーディングはほとんど一発録りでした。私には、もうおそろしくて、おそろしくて(笑い)」
齋藤さんが、穏やかな口調で述懐する。
「デヴィッドさんはすごいわよ。何しろ、練習もしないで『齋藤さんどうする? この曲はイントロがいくつで、アドリブがこうで』って言うと、すぐに本番をはじめてしまうの。後で聴くと、もっとあの音を伸ばせばよかったとか、声が出てないとかいろいろ考えてしまうけど、若いときとは違う哀愁があると言ってくださる人もいます。最初で最後のアルバムになるかもしれないけど、楽しく収録することができました」
冒頭のライブは、アルバムの完成を記念して沖縄本島に続いて、石垣島で行われた里帰り公演のひと幕だ。
デヴィッド氏の奏でる美しいピアノの旋律に乗せて、齋藤さんは『ダニーボーイ』や『テネシー・ワルツ』などのスタンダードナンバーや、琉球民謡の『なんた浜』など計6曲を歌った。
「いまも頑張れば3、4時間くらいは通して歌えるかな。若い頃に特訓したから、こう見えてもけっこうスタミナがあるんです」(齋藤さん)
取材・文/鈴木竜太
(第2回へ続く)
※女性セブン2023年2月2日号
世界的ピアニストのデヴィッド・マシューズ氏と共演(C)Yuta Nakama
旧姓は平良。将校倶楽部などに貼られた当時のポスター(写真は東山盛さん提供)
(写真は東山盛さん提供)
(写真は東山盛さん提供)
(写真は東山盛さん提供)
宮古島で生まれ、戦後は那覇で過ごした(写真は東山盛さん提供)
バンドマスター(中央のギター)は夫の勝さん(写真は東山盛さん提供)
歌詞を覚えるために書き写したノートはいまも大切に保存している
歌詞を覚えるために書き写したノート