人間は様々な感染症とともに生きていかなければならない。だからこそ、ウイルスや菌についてもっと知っておきたい──。白鴎大学教授の岡田晴恵氏による週刊ポスト連載『感染るんです』より、「おたふくかぜ」の恐ろしさについてお届けする。
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おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、ムンプスウイルスの感染によって起こります。
耳下腺などの唾液腺が腫れ、痛みと発熱を伴う感染症です。耳下腺の腫れがお多福さんを連想させるのでしょうが、片側しか腫れない場合もあります。通常では1~2週間で治りますが、合併症として無菌性髄膜炎や難聴などの危険性のある怖い感染症です。
実は子供のときに聴力を失う主要原因の1つがおたふくかぜです(約8割は片側のみ、2割は両側です)。私の友人の小児耳鼻咽喉科の医師はこの「ムンプス難聴」の小児を診断したときに、おたふくかぜの流行を知ると言っています。
潜伏期間は12~25日で、感染した人の3割は症状を出さない不顕性感染です。髄膜炎、髄膜脳炎、難聴、精巣炎、卵巣炎、膵炎などの合併症があります。ワクチンを未接種で大人になってから罹った成人患者では入院を要する症例が比較的多く、小児より重症化しやすい傾向があります。30代半ばで初感染した男性は精巣炎となって痛くて歩くこともままならなかったとか、成人女性患者はあまりの痛みに盲腸炎と思って救急に行ったらムンプスによる卵巣炎であったといった話もあります。
これらの合併症の中でも難聴は患者の500~1000人に1人は認められます。日本でも流行年には年間700~2300人がこの病気で難聴となっていると考えられています。ほとんどの場合は片側性の高度感音性難聴ですが、片側性難聴は小児では気づきにくく、遅れて診断されることが多いです。
ムンプスウイルスは飛沫感染、接触感染でうつり、1人から二次感染させる平均的な数は4~7人と感染力の強い病気です。予防ワクチンはありますが、先進国で日本のみが任意接種で留まっています。1歳から任意接種で受けることができますが、日本では接種率が低く、4、5年周期で流行が起こっています。