空襲警報が鳴り、地下のシェルターに向かう子供たち。2023年1月31日、ウクライナ・キーウ(時事通信フォト)

空襲警報が鳴り、地下のシェルターに向かう子供たち。2023年1月31日、ウクライナ・キーウ(時事通信フォト)

また後でやればいい、という考えがない子供たち

 子供たちは着の身着のままでやってきた。一番上は小学校高学年、あとの2人は低学年だ。何もかもか珍しいらしく、飛行機の窓にはりついて日本の景色を空から眺めた後、到着した成田空港のトイレでは便座が温かいことに驚いて、トイレから大声を出して駆け出してきた。バスの車窓から初めて見る高層ビル群を食い入るように見つめ、初めて入ったファミレスのメニューの多さに目を瞠っていた。見た目は元気いっぱいの子供たちだが、Aさんは色々な場面で戦争が彼らの心に落とした影を見つけたという。

「コンビニに行けば、お金が許す限り、できるだけ多くの食べ物やお菓子を買おうとする。食べ物は調達できる時に手に入れないと、次にいつ手に入るかわからないという思いが強い。それと同様に、目の前に食べ物があれば、吐きそうなくらいにお腹がいっぱいでも、無理やり食べようとする」とAさん。子供たちは、お菓子の袋を一度開けたら、無理をしてでも絶対に最後まで食べきるという。「次はいつ食べられるかわからない、残しておいたら誰に取られるかわからない、という状況が続いたからだろう」とAさんはいう。

 また子供たちはどんな些細なことでも、その時その場で体験しようとする。最初は自動販売機に驚き、見る度にコインを入れてジュースを買いたがった。また後でやればいい、今度また来ればいい、という考えは彼らになかったのだ。

「今できることは今やる。次はもうないかもしれないと思っていたので、またにしようという発想は彼らの頭の中になかった」と話すAさん。子供たちが日本に慣れるにつれ、自販機もコンビニもどこにでもあり、いつでも食べ物が手に入るとわかり、そういう行動はしなくなったと話す。

 子供たちにスニーカーを買ってやろうと、大きなスポーツ店に連れていった時は、壁一面に置かれた色とりどりのスニーカーに目を丸くした。「目ってあんなにまん丸くなるんだと思うぐらい丸くなった」(Aさん)という子供たちは、売り場の広さと品揃えに圧倒され、しばらく身動きできなかった。「彼らを見ていると、日本って豊かで安全な国なんだと思う」というAさんだが、新しいスニーカーに無邪気に喜ぶ彼らに注意したことがあるという。

 子供たちはその様子を、フリーWifiをつなげてキーウにいる友人たちに電話で話したのだ。Aさんは「子供だから無邪気に日本はこうだ、ああだと友達同士で話しているのだろうけれど、友達はシェルターの扉の前で電話していたり、外では警報が鳴っていたりする。置かれた環境があまりに違いすぎると、友達の心の中にお前はいいなとか、逃げたくせにという妬みやひがみ、やっかみという感情が生じないとも限らない。だから賑やかな店内や沢山の商品などが、絶対に背景に入らないよう注意した」という。日本の何気ない日常の風景や音楽が、戦争中のキーウの人たちの気持ちを逆なですることがあるようだ。

 日本での生活を始めたウクライナ避難民たちが、何の気兼ねもなく友人知人に近況を報告し、そして国に帰れると喜ぶ日はまだ先のようだ。

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