1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、春のGI「ヴィクトリアマイル」の見どころについてお届けする。
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ヴィクトリアマイルは2006年に創設された春の古馬牝馬女王決定戦で、僕は2011年にアパパネで勝たせてもらいましたが、今回は人気薄で2着に来たレースについてお話しします。僕らは馬券を買えないので人気はあまり意識していませんが、穴党にとっては、馬券のヒントになるのかもしれません。
まずはホエールキャプチャが12番人気で2着にはいった2013年のレース。この馬は前年の覇者で古馬牝馬の頂点に立ちましたが、その後調子を崩し、鼻出血などもあって5戦続けて二桁着順に甘んじていました。
僕はその4戦目から手綱を取ることになりました。新人当時からお世話になっていた田中清隆厩舎の馬なので、2歳時から稽古には乗っており、気性的に難しいところがあったけれど、力があるのは分かっていました。不調の原因も取り除いて、徐々に復活の兆しがありました。
前哨戦の阪神牝馬ステークスは14着でしたが、内容がよく、悲観するほどではなかった。前年の女王だし、3歳時にクイーンカップも勝っているので、直線の長い東京競馬場のマイルならいけるのではないかという手応えがありました。
ヴィルシーナとの壮絶な叩き合いでしたが結果はハナ差負け、その時の悔しさは今でも覚えています。ホエールキャプチャには、この後東京競馬場の重賞を2つ勝たせてもらいました。
牝馬は一度調子を落とすと、元に戻るのに時間がかかることがありますが、素質自体が消えてしまうことはありません。馬の力を信じ、スタッフの地道な努力で立て直した結果だと思います。過去の成績を着順だけで見ないことも頭に入れておくといいかもしれません。
2017年に11番人気で2着になったデンコウアンジュは、3歳時三冠すべてに出走しているので力はあるのですが、追い込み一辺倒の脚質で、前が止まらないと着順的にはどうしてもムラがあるように見えてしまう。オークスでは9着ながらコンマ4秒差。やはり9着だった秋華賞でもコンマ7秒差でした。
僕は前哨戦の阪神牝馬ステークスで初めて乗ったのですが、立ち居振る舞いが可愛くてバタバタ暴れることがなく、とてもいい子です。2歳時の東京マイル重賞では、その後マイルGIを2勝するメジャーエンブレムを破っており、東京の長い直線は得意なはずで、展開さえハマればいけるかもしれないなと思っていました。