多摩川から水をひくという水田は、きれいに耕され、6月上旬の田植えのための準備がされている
発酵学の第一人者であり、東京農業大学名誉教授で農学博士の小泉武夫さんは、米の食材としての広がりに期待する。
「炊いたご飯に米麹を加えて、発酵させて作る甘酒は栄養価が非常に高く、病院で打つ点滴と成分が似ているので“飲む点滴”と呼ばれます。また、米は米粉を使ったパンや麺類、もちや団子にもなります。米はいろいろな食べ物にかたちを変えることができるうえ、体にやさしい。無限の可能性を秘めた食べ物です」
国内で年間に消費される小麦は約600万〜700万トンだが、そのほとんどが海外輸入に頼っている。情勢の悪化などで小麦の輸入がストップすれば、たちまち小麦由来の食品は消え「食料危機」が現実となる。米粉ならば国内生産のものを安定供給できるうえに、食料自給率を上げる観点からも注目されるのは必然だ。
食料自給率(カロリーベース)1%と全国最下位の東京都で300年以上続く農家の13代目となった西野農園の西野耕太さんも、都内の農家では希少な米作りを行っている。そこにあるのは「農地や水田を絶やしたくない」という思いだ。
「お米を取り巻く状況はかなり厳しくなっています。米離れは止まらず、米価は下落するばかり、さらにコロナ禍で外食産業の米需要が激減しました。うちの農園では水田を4反持っていますが、そのうち2反は農業体験などで活用しています。自分たちが日々食べる米がどうやって作られているのか、米作りや農業について考えるきっかけになってほしい。手をかけて作り、質もよいのに低価格で販売されることへの問題提起になればとも思っています」(西野さん)
日本の米は伝統と将来性を併せ持つ。作り手の現状に意識を向け、健康のために体が本質的に求めている米を食べることが好循環を生んでいく。
「玄米や米ぬかによる美容効果も注目されており、米はエネルギー源としてだけでなく、健康、環境保全などいくつものパワーを秘めています。手軽さだけを重視するのではなく、未来の自分や日本を考えたときに手にするのがお米であってほしいと願っています」(澁谷さん)
アマテラスオオミカミが栽培を命じ、天皇自ら慈しみ育てられる米は、まさに日本人の「命の糧」だ。稲作の伝統を守ることは、ひいては私たちの健やかな体と長寿を守ることにもなる。まずはお茶碗一膳のご飯を食べることから始めたい。
撮影/浅野剛
※女性セブン2023年6月15日号