【著者インタビュー】山下裕二さん/『日本美術・この一点への旅』/集英社/2420円
【本の内容】
例えば山梨県では《山梨といえば、県立美術館のミレーが有名ですが、日本美術のジャンルでは、縄文土器をおすすめします。なにしろ縄文大国・山梨の出土品は質、量ともにすばらしいですから》(山梨県立考古博物館『深鉢形土器』)。岐阜県では《最初にいっておきますと、今回の旅はかなり遠いです(笑)。場所は岐阜県の山間の地、洞戸。それでも、わざわざ足を運んで現地で見る価値のある作品です》(関市洞戸円空記念館 円空『十一面観音菩薩及び善女龍王立像・善財童子立像』)。こんなふうに、都道府県ごとに山下先生がおすすめの「この一点」を選んで、作品の魅力や背景を易しく楽しく紹介するオールカラーのガイドブック。この一冊を手に全作品を実際にこの目で見たくなること請け合いです。
ワーワー言いながら見るのほんとは一番楽しい
人気の美術史家山下裕二さんがおすすめするこの一点を見に行こう。そんなコンセプトで編まれた、旅のお供に最適の、コンパクトな美術のガイドブックだ。
この作品の、ここが面白いんだよ。肉声がダイレクトに伝わってくるようだ。それもそのはず、気心の知れた美術大好き編集者に語った内容がまとめられている。
「面白がることが何よりも重要なんですよね。美術館に行くとみんな居ずまいを正してちゃんと見なきゃって思うけど、そうじゃない。ワーワー言いながら見るのがほんとは一番楽しい。今はコロナもあって美術館で喋ると怒られるけど。こないだなんて、自分が監修した展覧会で喋っていて監視の人に叱られちゃいました(笑い)」(山下さん・以下同)
気の合う仲間と美術作品を見て思う存分語る楽しさは、赤瀬川原平さんとの『日本美術応援団』など6冊の対談シリーズでもおなじみのものだ。
「赤瀬川さんと出会ったことでぼくの人生は大きく変わりました。あの出会いがなかったら、たぶんここまでメディアの仕事をしてないでしょう。23年前に『日本美術応援団』の表紙で学ランのコスプレしたのがすべての始まり。あのとき(装幀を担当した)南伸坊さんが『応援団なんでしょ? じゃあ学ラン着なきゃだめじゃん』ってみずから貸衣装で借りてきてくれてスタジオで撮影しました。赤瀬川さんも面白がって、それからも赤瀬川さんとの対談集は全部コスプレしてます」