必要なときには119番をしてほしい(イメージ、時事通信フォト)
気後れして「119」しない高齢の母
一方、こうした報道を見る度に、不安に苛まれている、という人もいる。
「私の田舎は九州の山間ですが、人口数万のエリアに救急車はたった一台だけ。しかも、実家は消防署から10キロ近く離れており、実家で一人暮らしの高齢の母親に何かあったとき、本当に搬送してもらえるのか不安なんです」
こう話すのは、大阪市内在住の会社員・野中勇二さん(仮名・50代)。実家は九州の田舎で、かつて地域を走っていたバスは廃止されタクシー会社は倒産。現在は、自治体が一日2便だけのコミュニティバスを走らせているが、利便性に欠け、通院や買い物はもってのほか、緊急時の利用など「全く期待できない」という。
「一度、本当に具合が悪くなり母が119番したとき、救急車が出払っており時間がかかると言われました。その後、救急車の利用に関する報道などを見たのか、あまり救急車は呼ばない方がいいと、不調を我慢したり、家族に知らせないようになったんです。必要なときは呼ぶべき、と話していますが、どうしても気後れしているようで、万が一の時が不安で仕方ありません」(平田さん)
都内の現役救命救急士・佐々木史人さん(仮名・30代)も訴える。
「我々を民間の業者と同様と思っている方は少なくなく、そうした方々の影響で、本当に必要な場合に救急車がいない、向かえないということが起きている。全国的に見て、救急に関わるスタッフ数は増えていますが、出動件数もコロナ渦を除けば右肩上がりの状態で追いつかないんです」(佐々木さん)
救急車が気軽に使える「サービス」ではないということを一人ひとりが自覚しないと、救えるはずの命さえ救えないのだ。