──肉体的に決して楽な仕事ではない料理人ですが、待遇面など近年では改善されている部分も見られます。それでも、短期間で辞めてしまう若者が多いのはなぜなんでしょう。
「ウチも月に2回は、連休の休みを設けるようにしました。実際のところ、飲食店で週休2日というのは、経営的にも容易なことではありません。しかし、若い人の生き方自体が変わってきているなかでは、少しずつ改善していかなければいけないのも事実。仕事に対する喜びや価値観みたいなものが、我々の頃とは違うんでしょうね。
仕事をはじめたばかりは、誰しも思うようにはできません。おもしろさを感じる余裕もないでしょう。それでも続けていると、ひとつひとつできることが増え、次第に仕事がおもしろくなってくる。そこへ行くまでに、みんな辞めちゃうんです」
──壁を乗り越える前に辞めてしまうのは、残念です。
「楽器なんかも同じですよね。ギターをはじめても途中で辞めてしまう人は、コードを覚えるまでが我慢できない。そこを乗り越えれば、おもしろくなるのに。そういった意味では、仕事がおもしろく感じるようになるまで持っていくのが僕らの役目。おもしろくなったら、あとは自分で伸びていきますから」
「必ず仕事は楽しくなる」
──料理人を志す若者には、高校などを卒業してすぐにお店に入るタイプと、調理師学校で学んでから就職するケースと2通りあると思いますが、両者に違いはありますか?
「すべてというわけではありませんが、高校卒業してすぐに入ってくる子は、やはり高校生気分が抜けていないですよね。だから、急に環境が変わり、毎日毎日仕事をしていると、途中で嫌になったり、遊びたくなったりしてしまう。調理師学校を出てからくる子は、技術うんぬんというよりも、『料理人になる』という強い気持ちを持っている。ウチで働いている坂上やあかりも、調理師学校を出てから入ったタイプです」
──最近では、アルバイトを禁止している高校も多いようです。そういった面も、就職後の環境変化に適応できない若者が多い要因のひとつかもしれませんね。
「面接や出社初日に、親と一緒にくる子はたいてい続きませんね。もう社会人になるわけだから、親は関係ないんです。働くという気構えができていない。そうした甘えたところが、一生懸命働いているうちに抜ける子もちゃんといる。続けていくことで、変わるんです。働いているなかで、目標や夢が変わることもあります。それ自体は、決して悪いことじゃない」