ライフ

【書評】2022年に70歳で急逝した大森一樹監督 旧友たちにより死の1年後にまとめられた“自叙伝”

『映画監督はこれだから楽しい わが心の自叙伝』/大森一樹・著

『映画監督はこれだから楽しい わが心の自叙伝』/大森一樹・著

【書評】『映画監督はこれだから楽しい わが心の自叙伝』/大森一樹・著/リトルモア/1980円
【評者】関川夏央(作家)

 十七歳から自主映画をつくりはじめた大森一樹が、京都府立医科大学入学後に完成させた『暗くなるまで待てない!』は、映画館の明かりが落ちるまで上映が待てないという映画ファン映画だった。

 そんな彼が、若者たちの無免許移動放送局に日本版「老ボニーとクライド」をからませたシナリオ『オレンジロード急行』を書いて七七年「城戸賞」に入選、翌年大森自身の監督でつくられ、公開された。映画に熱中し過ぎて二年留年した大森はこのとき医大七年目の五年生、二十六歳であった。

 ATG(アート・シアター・ギルド)の二代目社長・佐々木史朗から、よい企画はないかと尋ねられたのは、七九年、二十七歳のときで、医大最終学年の実習はおもしろいですよ、と大森がこたえると、ではそれでホンを書いて、と佐々木はいった。

 ATGの資金協力でつくられたその映画、医師生活の門口に立つ青年たちの成長と不安をえがいた『ヒポクラテスたち』は、大森が二十八歳で医大を卒業した八〇年に公開された。主演は古尾谷雅人と伊藤蘭、青春映画の傑作であった。

 以後、四十本以上の映画を撮った大森は、二〇〇〇年代からは大阪芸大の映像学科長をつとめた。しかし六十九歳の二〇二一年秋「あまりの体のだるさに」病院へ行くと、急性骨髄性白血病と診断され、即入院となった。化学療法の効果はあったものの二二年春に再発、本書の大部分を占める「自叙伝」の原稿依頼を受けたのはその入院中で、「余命半年から一年」といわれても現実感はなかった。そして二二年十月に退院、十一月、急逝。

 七十歳は、『オレンジロード急行』に登場させた老犯罪者(岡田嘉子と嵐寛寿郎)の設定年齢とおなじだったが、状況はあまりにあわただしく、大森が老人の実感を味わうことはなかっただろう。「自叙伝」の原稿が新聞連載されたのは二三年になってからで、この本は旧友たちの手で死後一年に刊行された。

※週刊ポスト2024年2月2日号

関連記事

トピックス

西武・源田壮亮の不倫騒動から5カ月(左・時事通信フォト、右・Instagramより)
《西武源田と銀座クラブ女性の不倫報道から5か月》SNSが完全停止、妻・衛藤美彩が下していた決断…ベルーナドームで起きていた異変
NEWSポストセブン
大谷夫妻の第1子誕生から1ヶ月(AFP=時事)
《母乳かミルクか論争》大谷翔平の妻・真美子さんが直面か 日本よりも過敏なロスの根強い“母乳信仰”
NEWSポストセブン
ホストクラブで“色恋営業”にハマってしまったと打ち明ける被害女性のAさん(写真はAさん提供)
〈ちゅーしたら魔法かかるかも?〉被害女性が告白する有名ホストクラブの“恐ろしい色恋営業”【行政処分の対象となった悪質ホストの手練手管とは】
NEWSポストセブン
公務のたびにファッションが注目される雅子さま(撮影/JMPA)
《ジャケットから着物まで》皇后雅子さまのすべての装いに“雅子さまらしさ“がある理由  「ブルー」や小物使い、パンツルックに見るファッションセンス
NEWSポストセブン
小室圭さんと眞子さん(2025年5月)
《英才教育》小室眞子さんと小室圭さん、コネチカット州背景に“2人だけの力で”子どもを育てる覚悟
NEWSポストセブン
アントニオ猪木さん
アントニオ猪木を看取った付き人が明かす「最期の2か月」 “原辰徳の物まねタレント”が猪木を介護することになった不思議な巡り合わせ
週刊ポスト
寄り添って歩く小室さん夫妻(2025年5月)
【ステーキの焼き方に一家言】産後の小室眞子さんを支えるパパ・小室圭さんの“自慢の手料理”とは 「20年以上お弁当手作り」母・佳代さんの“食育”の影響
NEWSポストセブン
不正駐輪を取り締まるビジネスが(CPGのHPより)
《不正駐輪車を勝手にロック》罰金請求をするビジネスに弁護士は「法的根拠が不明確」と指摘…運営会社は「適正な基準を元に決定」と主張
NEWSポストセブン
「子供のころの夢はスーパーマンだった」前田投手(時事通信フォト)
《ワンオペ育児と旦那の世話に限界を…》米国残留の前田健太投手、別居中の元女子アナ妻が明かした“日本での新生活”
NEWSポストセブン
眞子さんと佳子さま(時事通信フォト)
《眞子さん出産発表の裏に“里帰りせず”の深い溝》秋篠宮夫妻と眞子さんをつないだ“佳子さんの姉妹愛”
NEWSポストセブン
田中容疑者の“薬物性接待”に参加したと証言する元キャバクラ嬢でOLの女性Aさん
《27歳OLが告白》「ラリってるジジイの相手」「女性を切らすと大変なんだ…」レーサム創業者“薬漬け性接待”の参加者が明かした「高額報酬」と「異臭漂うホテル内」
週刊ポスト
宮内庁は小室眞子さんの出産を発表した(時事通信フォト)
【宮内庁が発表】眞子さん出産で注目が集まる悠仁さま成年式「9月ならば小室圭さんとともに出席できる可能性が大いにある」と宮内庁関係者
NEWSポストセブン