伊集院光は吃音がある兄がいると告白し、兄が作ったネタに、出前でタンメンを注文するとタンタンメンが来てしまうというものがあり、それを超えるような誰もが腹を抱えるネタがあれば……と希望を述べるが、インたけにも「ラーメン二郎で“マシマシ”を注文すると“マシマシマシマシ“ととんでもない量になる」というネタがあるのだという。
大事なことは「お笑い」を送り出す芸人やテレビと、視聴者や当事者とのコミュニケーションの持ち方なのだろう。その意味ではお笑いの側が視聴者に注文する姿勢が見え始めているのは前向きに受け止めるべきだ。『水ダウ』で伊集院光が視聴者の側に要望していたのが印象的だ。
「『笑われる』ということをこっち側がわかってやっているのだから、これは『俺が笑わせていること』という転換が起こる。そしたらこれは武器じゃんとなる。お笑いではコンプレックスは全部武器になる。師匠にも言われた。彼の吃音もみんなにいじられたりとか、時に笑われたりとかしても、芸人になればいいじゃん。俺が芸人を好きなところはもしかしたら一般生活ではつらいこともある特徴がみんなに喜んでもらえる。こっちはそれをわかってやっている、という関係ができる。世界一素晴らしい職業だと思っている。もちろん苦労している人もいっぱいいるし、そのご家族もいるので(吃音協会などが苦情を)言いたくなるのはわかるけど、そこはわかってほしいんだよね……」
笑われる側が笑わせる側に変わる。コンプレックスが一転して強みに変化する。それこそが本来の「お笑い」のあり方であると気づかせてくれる。
『水ダウ』による「お笑いと障害」についての問題提起。芸人やテレビという送り手の側、それに視聴者や障害の当事者という受け手の側。双方がもっとコミュニケーションをとって新しい「お笑い」のかたちを探していくこと。それこそ何かと批判されやすい現代のテレビが乗り越えなければならない挑戦なのだろう。
【プロフィール】
水島宏明(みずしま・ひろあき)/1957年北海道生まれ。札幌テレビで生活保護の矛盾を突くドキュメンタリー『母さんが死んだ』や准看護婦制度の問題点を問う『天使の矛盾』を制作。ロンドン、ベルリン特派員を歴任。日本テレビで「NNNドキュメント」ディレクターと「ズームイン!」解説キャスターを兼務。『ネットカフェ難民』の名づけ親として貧困問題や環境・原子力のドキュメンタリーを制作。芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。2012年から法政大学社会学部教授。2016年から上智大学文学部新聞学科教授(報道論)。放送批評誌「GALAC」前編集長。近著に『メディアは「貧困」をどう伝えたか 現場からの証言:年越し派遣村からコロナショックまで』(同時代社)、『内側から見たテレビ─やらせ・捏造・情報操作の構造─』(朝日新書)、『想像力欠如社会』(弘文堂)。