主人公が昭和と令和の世を行き来するドラマ『不適切にもほどがある!』が話題を呼んでいる。2つの時代を比較した時、何が見えてくるのか。『女性セブン』の名物ライター“オバ記者”こと野原広子が綴る。
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「やだ、何、これ〜っ」「ギャハハ。そうそう、こんな教師いたよ」と弟夫婦(ともに55才)がテレビの前で大爆笑している。
気がつくと私もヒーヒーと声を出して笑っていた。いま、こんな中高年が日本中にあふれているんじゃないかしら。私が参加しているフェイスブックのグループは、宮藤官九郎脚本のテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)の放送翌日、昭和のおじさんたちの熱いコメントでバズっている。
言うまでもないけれど、このドラマは、阿部サダヲ演じる体育教師が昭和61年から令和6年へタイムスリップして、38年離れた2つの時代を行き来することで巻き起きるコメディーだ。何がすごいって、当時の世相を反映しているスケバンチックな娘の振る舞いやファッションが衝撃的だし、「ニャンニャン」とか「チョメチョメ」というセリフだけでも、私はドキドキが止まらない。
ところが画面がCMに変わって、正気を取り戻すと、ふとあの頃を思い出す。
昭和61年といえば、私は記者歴7年目で、結婚して離婚もして、恋にも破れて歌舞伎町に編集プロダクションの事務所を開いたときで、うら若き29才。いまでこそドラマの喫煙シーンに強烈な違和感を覚え、「それはダメッ!」と声をあげたけど、振り返れば当時の私は、人と話すときも原稿を書くときもたばこは指から離れなかったし、長距離バスの中でも灰皿があるのをいいことにスパーッ。私だけじゃない。テレビの中の“飛んでる女優”たちは全員、スパーッよ。
でも、「ん?」と思わないではなかったのよ。その数年前からアニメ映像のビールCMが流れ、たばこケースは若い女の子が「かわいいっ」と飛びつきそうなデザインだったし。お酒もたばこも未成年はダメだったけど、実際それほど取り締まらなかったし。まぁ、世の中がゆるいというか幅があったんだよね。
そういえばこの年の秋、日本社会党の土井たか子さんが「山は動いた」という名文句をひっさげて史上初の女性党首になったの。「いよいよ女の時代到来か」と、働く女たちは色めき立ったんだよね。歴史の変わり目に立ち会いたいと思った私は社会党のイベントに積極的に参加したんだけど、質問コーナーで若い女性が「推薦があったら総理大臣になりますか?」と聞いたら、「ありません。そんな……総理なんてできません」と土井さんは顔色を変えて否定したんだわ。せめて、「チャンスがあれば前向きに考えます」くらい言ってほしかったなぁ、と最前列でおたかさんの顔を見上げていたっけ。