手錠のイラストも(「いらすと本舗」より)
「いらすと本舗」はサイト来訪者が閲覧する広告からの収入を活動源としている。今回の大反響に、渋谷氏は「こうやって話題になることでサイトに来る方が増え、イラストを利用していただきたいと思っています」と感謝の言葉を述べる。
「センターでの刑務作業では作業指導の会話以外、雑談は禁止されています。センター生がどう思っているのか、細かく聞く機会はほとんどありません。しかし、自分の作品のダウンロード数が多いとやはりうれしいようですし、少ない場合は何が悪かったのかをセンター生同士で話し合っているみたいです。
センター生たちは、学校の授業以外で絵を描いたことがない人がほとんどです。描けないと思っていた絵が根気よくやることで描けるようになるのがうれしいのでしょう。そして、その絵がいろいろな人の目に触れ、ダウンロードして使ってもらえることにやりがいを見出しているようです」
応援の声が多くある一方で、〈イラストの指導に税金が使われているのか〉との批判もある。渋谷氏は、「イラストの指導は、みね友善塾の持ち出しで行っており、税金は使われていません」と説明する。
「簡単に言えば私は雇用主で、センター生は従業員。私が給料を払って、彼らを雇っている形です。詳細は言えませんが、10年間この活動をする中で彼ら(センター)に支払った金額は、超高級車や郊外に中古の一戸建てが買えるくらい。逆に累計売上は数万円、たぶん10万円に達していないと思います」
それだけ大きな金銭的負担がありながらも、なぜ渋谷氏はイラストの指導を続けるのか。
「初め私は興味半分で彼らに会い、絵を指導しました。実に迂闊(うかつ)でした。なぜなら、彼らの刑務作業は社会復帰のための人生を賭けた作業です。その作業に関わった以上、多少苦しいから、持ち出しの金が膨らんだからといってやめるわけにいきません。他人の人生の大事に関わってしまったのですから。
センター生に絵を教え始めてから2か月ほど経ち、みんなの絵が少し上手くなってきた頃にセンター生が『自分、もう少しで出所なんです。絵を描きだして面白くなって、今までなかった新しい世界が始まるんじゃないかと期待したんです。無理なことですが、初めて出所が伸びればと願いました』とボソッと言いました。その言葉が活動を継続する原動力になっているかもしれません。
将来的にやりたいことはたくさんあります。現状では、活動維持が最大の願いです。彼らの社会復帰のために続けていけたらと思っています」
多彩なイラストの裏側には、渋谷氏やセンター生たちの人生があった。
取材・文/原田イチボ(HEW)