ネット上で注目を集めているフリー素材サイト「いらすと本舗」。カテゴリ別に多数のイラストが無料配布されており、特に好評なのが、「漫画背景画」カテゴリだ。校舎や高層ビルといった定番のものはもちろん、実在の建築物、時代劇向けの背景までバラエティ豊かに取りそろえており、クリエイターたちから〈めちゃくちゃ助かる〉〈ありがたすぎる〉と感謝の声が寄せられている。イラストだけでなく、3D素材を豊富に配布しているのも特徴だ。
これらのイラストは、山口県のPFI刑務所(官民協働の刑務所のこと)である「美祢社会復帰促進センター」のセンター生(受刑者)たちが更生・刑務作業として制作したものだという。ホームページの概要欄では、以下のように説明されている。
〈「ひとつの事を手を抜かず、最後までやり遂げる」を行動指針とし、また成果品をダウンロードしてもらい使ってもらうことで、「人に喜んでもらっている」「必要とされている」「頑張れば経験のない自分でもこれだけの物が出来るんだ」を体感し、社会復帰後にこれらの経験を活かしてもらいたく作業をしてもらっています〉(「いらすと本舗」ホームページより)
ネット上では〈これ更生作業の一環なの?〉〈すごい時代…〉と驚きの声が続出し、アクセスが集中するあまり一時はサーバダウンするほどの大反響となった。
異色の更生作業の意図を聞く
「いらすと本舗」を運営するみね友善塾の代表取締役である渋谷巧氏に取材した。渋谷氏は「苑場凌」名義で漫画家としても活動しており、センター生にイラストの指導を行っている中心人物でもある。異色の更生作業はどのように生まれたのか。
「10年以上前から、センター生に絵の指導をしています。知人がセンターでホームページ制作の刑務作業に携わっており、それを見学に行きました。『もっとオリジナリティのあるホームページにしたいから絵の指導をしてくれないか』との要望を受けて、軽い気持ちで指導を始めました」(渋谷氏、以下同)
イラストの指導を行うことになり、センター生は初め「突然現れて何言ってんだ?」とでも言うような冷たい視線をぶつけてきた。しかし、指導によってイラストが上達していくと、自ら質問してくるなど積極的な姿勢を見せるようになり、彼らの変化を受けて、渋谷氏もより本格的な指導を行っていくことを決意した。
もともとはセンター生の制作物を使い、漫画の背景画のみを有料で販売する「漫画家本舗」というホームページを運営していた。しかし、背景画だけでなく人物も描けるセンター生が増えたこともあり、「もっと多くの人にセンター生の作品を知ってもらいたい。利用してもらいたい」という一心で、幅広いイラストを無料配布する「いらすと本舗」を2021年10月に立ち上げた。