サッカーの国際審判員を2014年に退任後、JFAの「プロフェッショナルレフェリー」として指導的役割を果たす西村雄一氏(撮影/田中麻以)
「なぜ『法則』なのかといえば、サッカーが“ジェントルマンスポーツ”であるからです。ルールで細かく反則を規定して選手の行動を制限するのではなく、選手がゲームの法則を理解したうえで、自らを律しながらゲームに参加していました。
現実には、プレーのたびに選手が自分で判定しながらでは試合に集中できませんし、そもそもプレーの質が曖昧な部分が多いサッカーでは、各選手で判定基準が異なるケースもあります。そこで、プレーが法則に則っているかどうかの判断を誰かに委ねる。
その『委ねる=レファー(refer)』が語源となり、両チームから試合進行をレファーされた者ということでレフェリーなのです。レフェリーの役割は、あくまで選手から試合進行を任されることであって、“選手にルールを守らせる”という性格ではないといえます」
役割はジャッジメントではなくマネジメント
そうした由来があるがゆえにサッカーの試合では、審判の「主観」に委ねられる場面が少なくない。例えば、デジタル時計の表示ではアディショナルタイムが終了していても、どちらかのチームが得点に結びつきそうな状況であれば、そのプレーが途切れるまでは試合終了の笛を吹かないような“不文律”も、主審の裁量権として与えられている。
0.1秒単位でプレー時間が決まっているアメリカンフットボールやバスケットボールとは対照的だ。アウトとセーフ、ストライクとボールが規定されている野球や、ボールのイン・アウトの明確さが求められるテニスなどのネットスポーツとも大きく異なる。
「本来、『ルール』には曖昧さがあってはいけないものですが、現実として『法則』で進むサッカーには曖昧さが多くあります。だからこそ私は、サッカーの審判の役割を“ジャッジメント”ではなく、“マネジメント”と考えて笛を吹いています。
もちろん判定の正確さを軽んじているわけではなく、それ以上に選手が思う存分プレーできるような試合を実現するためのマネジメントが重要なのです。なかなか難しい表現ではあるのですが、私もいろいろな経験を重ね、“マネジメント”という言葉が腑に落ちるようになりました」