炎上コメントを書いてしまう人へ岸田さんがアドバイス(撮影/五十嵐美弥)
「ジャーナリングという心理療法があって、何かが起こったときにその事実と思ったことをとにかく書き出すと、なんで自分はこんなことで怒っているんだろうと、あほらしいって思えてきて、意外と救われることがあるんです。日記は、現代人のメンタルヘルスのためによいことなのだと思います。
私自身も、エッセイを読まれるのはもちろんうれしいですけど、自分のために書いている側面が大きいです。スマホでつらい事件やどうしようもない炎上を見たりするとめちゃくちゃキツいんですよ。それが自分と属性が似ている人とか、弟のような障害者の人が叩かれていたりすると、さらにしんどくて。スマホの画面だけを視界の近くでまっすぐ見ていると、怒りしか沸いてこないんですよ。
でも、書くということは、自分の視界をちょっと遠くにして、広げることなんです。もしかしたらあのとき、見守ってくれていた人がいたんじゃない? とか、なんでこの人はこんな発言をしたのか想像してみようとか、メタ認知とも言えるかとおもいます。書くことは、ちょっと俯瞰する行為なんですよね。
まっすぐに見ているときは壁しかなかったのに、意外と視界が広がるんですよ。あの人は私に悪口を言っていたんじゃなくて、実は苦しくて、助けを求めていたんじゃないか。自分の話を聞いてほしくて、その苛立ちが悪口みたいになってしまっていたんじゃないかって」
noteに掲載されたエッセイの中でもよりすぐりの作品が並ぶ最新作『国道沿いで、だいじょうぶ100回』で意識したテーマは、「いったん敵に寄り添う」ことだと岸田さんは語る。
「『死ね』ってメッセージや、病院食のサバに文句を言っている入院患者さんや、入院時に私がお見舞いに行かなかったなかっただけでキレたうちのお母さんなど、いやな人とかいやな気持ちに、いったん寄り添ってみるって意外と大事なんですよね。
私は、自分自身が幸せであるために、『死ね』って言ってきた人を一生恨み続ける人生はいやなんです。だから、私にとって都合よく人生を生きていくために、いったん敵を理解することを心がけています。
自分の物語にしていくっていう力がたぶん強いんだと思います。怒りは相手を傷つけることが目的になって、思ってもないことを言っちゃうから自分の物語じゃなくなっちゃうんですよね」
【プロフィール】
岸田奈美(きしだなみ)/1991年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年に渡り広報部長を務めたのち、作家として独立する。 Forbes 「30 UNDER 30 JAPAN 2020」選出。ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』が7月9日よりNHKで地上波放送。最新作に『国道沿いで、だいじょうぶ100回』。
取材・文/イワイユウ