ライフ

【書評】『税という社会の仕組み』安倍政権下で劣化した行政システムをどう変革するか 納税する国民の権利と権限を示し、解決策を考えるための教科書

『税という社会の仕組み』/諸富徹・著

『税という社会の仕組み』/諸富徹・著

【書評】『税という社会の仕組み』/諸富徹・著/ちくまプリマー新書/990円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 国会で審議中の「子ども・子育て支援金」は、財源を健康保険料に上乗せして徴収する増税法案だが、増税とは謳っていない。そればかりか岸田内閣は、増税によってもたらされる「出生数の増加」に関する予測情報すら示さないで、「ただ必要だ、必要だといっているだけ」。

 国民が負うべき負担についても、税率を明確に法律で定めることなく、ひと月「一人あたり500円」とあいまいにしたまま。すでに「500円」では収まらないことは、この間の国会審議で明らかになっている。

 年収600万円のサラリーマン世帯だと月1000円、年収400万円の自営業者だと月550円、年収250万円の後期高齢者でさえ月550円の負担となるという。「国民が求める情報をきちんと作成し、わかりやすい形でそれを開示していく責任」を果たさないこのやり方は、著者の言う「租税法律主義」に反している。

「国家権力の中核的要素」である「課税権」は、「生活に直結する非常に優先順位の高い政治課題」だけに、「国民の同意なくして課税されることはない」というのが「社会契約」である。税の目的と効果を詳しく説明することは、古くはイギリスの「権利章典」、フランスにおける「人権宣言」に明記され、近代国家に共通の基本理念であると、本書は指摘する。

 なぜ、こんないい加減がまかり通るのか。「日本では、お上(政府)が市民に対して一方的に金銭負担」を課してきた税の歴史と発展過程にあるという。その傾向がひどくなったのは、安倍政権下の「政治主導」による「官僚の人事」への影響が大きい。

 首相がかかげる政策を成立させなければ、官僚の首が危うくなる。そのため、「江戸時代の年貢のように有無をいわさず一方的に」取ることに邁進するわけだ。この劣化した行政システムを変革していくには、どうすればいいか。本書は、納税する国民の権利と権限を示す。解決策を考えるための教科書でもある。

※週刊ポスト2024年6月28日・7月5日号

関連記事

トピックス

渡邊渚さんが性暴力問題について思いの丈を綴った(撮影/西條彰仁)
《元フジテレビアナ・渡邊渚さん独占手記》性暴力問題について思いの丈を綴る「被害者は永遠に救われることのない地獄を彷徨い続ける」
週刊ポスト
 6月3日に亡くなった「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
【追悼・長嶋茂雄さん】交際40日で婚約の“超スピード婚”も「ミスターらしい」 多くの国民が支持した「日本人が憧れる家族像」としての長嶋家 
女性セブン
母・佳代さんと小室圭さん
《眞子さん出産》“一卵性母子”と呼ばれた小室圭さんの母・佳代さんが「初孫を抱く日」 知人は「ふたりは一定の距離を保って接している」
NEWSポストセブン
金田氏と長嶋氏
《追悼・長嶋茂雄さん》400勝投手・カネやんが明かしていた秘話「一緒に雀卓を囲んだが、あいつはルールを知らなかったんじゃないか…」「初対決は4連続三振じゃなくて5連続三振」
NEWSポストセブン
違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
ソロとして音楽活動5周年を迎える香取慎吾
《ソロで音楽活動5周年》香取慎吾が語った「5人とは違って…」「もっとできるはずなのに」ソロで経験した“挫折” ライブツアーでは「パーフェクトビジネスアイドル」としてファンを沸かせる
NEWSポストセブン
13年ぶりの写真集『ふたたび』(双葉社)を5月30日に発売
小向美奈子 Xで「今年結婚します!」投稿の真意を本人に聞いた 今でも「年に1~2回くらいは求婚される」と語る彼女は“ダーリン”との未来予想図をどう描くのか
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
沖縄を訪問される天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年6月4日、撮影/田中麻以)
《愛子さま 初めての沖縄ご訪問》ブルーのセットアップで母娘の“おそろい”コーデ再び! 雅子さまはくすみカラーで落ち着いた着こなしに
NEWSポストセブン
人気インフルエンサーがレイプドラッグの被害者に(Instagramより)
《海外の人気インフルエンサーが被害を告発》ワインに“デートレイプドラッグ”が混入…「何度も嘔吐し、意識を失った」「SIMカードが抜き取られていた」【オーストリア】
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
「週刊ポスト」本日発売! ミスター長嶋茂雄は永久に!ほか
NEWSポストセブン