作家デビュー10周年の記念作品。手仕事の喜びを細やかに温かく描く
暦の上ではとっくに秋でも、まだまだ暑いこの季節。涼しい室内にこもって読書にふけるのがいちばんです。おすすめの新刊4冊を紹介します。
『リボンちゃん』寺地はるな/文藝春秋/1650円
地球滅亡の瞬間まで女性が針仕事をするSF短編を読み、分かると思ったことがある。手仕事には没我の喜びと鎮静がある。髪にリボンを欠かさない33歳の百花、義父のテーラーを継いだ伯母。二人がビスチェのリフォームや手作りショーツなどを通し、それぞれの道を見つけるまでを細やかに描く。脇役も多彩。普通の顔の生活者の中にこそ多様性があると各人が愛おしくなる。
死ぬってどういう感じなのか。「困ったことに死んでみないとわからない」(最晩年の言葉)
『行先は未定です』谷川俊太郎/朝日新聞出版/1980円
昨年92歳で他界した谷川俊太郎さん。晩年の生の言葉や生涯にわたって作り続けた詩を「いきる」「あいする」「しぬ」などの項目で再構成する。谷川さんは言葉に不信感を持ち続けた詩人だった。「意味より無意味がえらい」として子供達が喜ぶ詩も沢山作った。JR高田馬場駅で発車メロディが流れるたびに思う。ここにも谷川さんがいると。谷川さんは『鉄腕アトム』の作詞者でもあった。
刺激的でパワフルな知の泉。大人にも子供にも薦めたいこの夏の必読書
『生き延びるための昭和100年史』佐藤優 片山杜秀/小学館新書/1430円
今年は戦後80年&昭和100年目。最強話者の二人が丁々発止で通史を編んでいく。速読するなかれ。時間をかけて読んでこその知の泉だ。戦前の右翼、戦後の破防法施行と公安調査庁設置、学生運動や労働運動などなんと昭和は激しかったことか。では今は平穏な時代?“歴史は韻を踏む”という言葉がある。先の参院選結果が暗示するように、実は怖い時代に突入しているのだ。
舞台は滋賀県の膳所。本屋大賞ほか、数々の賞を獲得した鮮烈デビュー作
『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈/新潮文庫/693円
「よろしく頼む」などジェンダーレスな喋り方をする成瀬あかり。文武両道の彼女の中2から高3までの4年間を描く6話の短編集だ。読むほどに成瀬の魅力度がバク上がりするのが楽しい。最終話では漫才の相方でもあった幼馴染みの島崎みゆきが東京に引っ越すことに。成瀬の動揺ぶりに、彼女もフツーの女の子だったんだと微笑ましくなる。続編の文庫化がもう待ち遠しい。
文/温水ゆかり
※女性セブン2025年9月4日号