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ベツコミ創刊55周年企画展に訪れた漫画家・最富キョウスケ氏「涙が止まらなくなりました」「歴史の一部になれたことを実感」

『ベツコミ』の創刊55周年を記念する企画展が開催中!

 小学館の月刊少女漫画雑誌『ベツコミ』の創刊55周年を記念する企画展 「ベツコミ55th ANNIV. BEYOND THE PAGE 好き、のつづき。」が10月3日〜13日の間、新宿・LUMINE 0で開催中だ。「ポーの一族」「BASARA」「BANANA FISH」など往年の名作少女漫画の原画や、企画展でのみ体験できるオリジナルのイマーシブ映像、制作過程の貴重な資料や映像などが展示される。

 現在、漫画ファンの間でSNSなどでも話題になっているこの展示を、実際のベツコミ作家がレビュー。『電撃デイジー』や『クイーンズ・クオリティ』など、ベツコミで長く連載作品を公開してきた漫画家・最富キョウスケ氏が、展示を見ながら、ベツコミの歴史を振り返る。

イマーシブ映像で作品の世界観とベツコミの歴史を体感

 最富氏は2002年に「ベツコミまんが学園ブロンズ賞」の受賞をきっかけに、『デラックスBetsucomi』でデビュー。その後、『ベツコミ』本誌や増刊号で多数の連載・読み切りを発表し、誌面の看板作家のひとりとして、現在も活躍中。そんな最富氏は、デビュー前から『ベツコミ』を愛読しており「憧れの漫画雑誌だった」と話す。

「ベツコミは『BASARA』や『BANANAFISH』など、わたしにとってはバイブルともいえる作品が多く掲載されていて、特別な少女漫画誌でした。デビューが決まったときには、感無量としかいいようがなかったです。そんなベツコミが今年で55周年というのですから、本当に感慨深いです」(最富氏・以下同)

 開催初日に今回の55周年記念展を体験した最富氏は、本展示のために作られたイマーシブ映像や、50作品以上の原画展示について、「涙なしには見られなかった」とも話してくれた。

「今回展示されている原画やドローイング映像は、現役の漫画家であるわたしが見ても、思わず感心してしまうほど貴重なものばかり。線やホワイトの入り方、描く順番など、それぞれの作家さんならではルールを垣間見ることができて、非常に参考になりました。

 またイマーシブ映像は、いま思い出しただけでも、涙が出そうになるほど感動しました。『ポーの一族』や『風光る』、『僕等がいた』など、自分が読者として長年愛してきた作品のキャラクターたちが動き、当時の名シーンが再現されています。わたしの代表作である『電撃デイジー』も選抜いただき、いまも自分の中に生きるキャラクターたちがいきいきと動いている姿は、本当に印象的でした」

 イマーシブ映像では『BANANA FISH』や『BASARA』など、20世紀を代表する作品から、『主人恋日記』や『柚木さんちの四兄弟。』など、令和のベツコミを盛り上げる作品まで、計16作品がイマーシブ映像化。三面モニターをめいっぱい使い、まるで自らがページをめくっているような新しい映像表現に音楽を合わせ、各作品の世界観を体感することができる。

イマーシブゾーン『BANANA FISH』

「自分の作品もそうですが、どの作品の映像も、作家さんと編集さんが愛を込めてチョイスした名シーンを体験することができて。いますぐ家に帰って、もう一度漫画のページをめくりたいという衝動を感じました。30分にもわたる映像ですが、わたしが愛してきたベツコミはこんなにすごいんだと、涙が止まらなくなりました」

生原画やドローイング映像で振り返る「アナログ作画時代の苦楽」

 創刊55年の歴史を体現するかのように、豪華な作家陣の作品が展示された原画ゾーン。最富氏は、デジタル制作している『クイーンズ・クオリティ』の作画工程を撮影したドローイング映像に加え、アナログ制作していた『電撃デイジー』の原画も展示。

「ドローイング映像をお見せするのは恥ずかしさもありましたが、できあがった漫画だけを見ていただくよりも、自身のこだわりや漫画への愛が伝わるのではないかと思いました。わたし自身は、デジタルでの作画が性に合っているのですが、自分や他の作家さんの原画を見て、やっぱりアナログで描かれた作品はいいなあとも思いましたね」

体感ゾーン(ドローイング動画)

 最富氏は今年完結したばかりの『クイーンズ・クオリティ』から、デジタルでの漫画制作を開始。しかし「紙とインクにまみれた作家人生の半分」を振り返ると、苦くも懐かしい思い出が多く蘇るという。

「アナログ作画で最も大変なのは、描き直しができないこと。わたしは一発で仕上げられるタイプではなかったので、ホワイトを使いすぎてしまい、原稿がどんどん立体的になっていくんですよね(笑)。ホワイトが乾き切る前にペンを入れてしまう失敗を重ねたりと、本当に毎日、紙とインクと自分の線に泣かされていました。

 その点、デジタル作画では何度でも描き直しができるので、作画時間は当時と比べて半減しました。だけど、失敗できない紙の原稿には、一本の線に魂を込める時の情熱があった。デジタル作画でも想いは込めているのですが、完成原稿の手触りを感じられたあの時代があったからこそ、いまの自分がいるとも思います」

「当時のアシスタントたちが原稿明けに浸かった後の湯船には、たくさんのトーンの切れ端が浮かんでいた」と笑いながら振り返る最富氏。ベツコミでの活動歴は今年で23年にもなる。「イチ読者だった」あのころと比べて、いまのベツコミをどう感じているのだろうか。

「わたしの作品はアクション要素も強くて、一般的な少女マンガらしからぬ部分も多いのですが、ベツコミはそんな“少女漫画の多様性”を受け入れてくれる雑誌でした。ど真ん中の少女漫画もあれば、タイムリープもの、時代劇ものもあっていい。そのスタンスは、いまも昔も変わらないのではないかと思います。

 ですがストーリーの多様さは許容しつつも、一貫して“ラブ要素”を求められるところが、ベツコミを少女漫画たらしめているのだと、デビュー後にまざまざと感じましたね。『ラブが足りない!』と編集さんにネームを突き返された回数は数え切れませんが、ラブとは何か、愛とは何かを教えてくれたのが、ベツコミでした。55年のうちに時代は大きく変化したと思いますが、ボーイ・ミーツ・ガールという少女漫画の基本を忘れないのも、ベツコミらしさだと感じます」

編集者や読者が「いまの時代にベツコミを繋いでくれた」

 いまも自宅に大量のベツコミ本誌を保管しているという最富氏。ベツコミは恋愛の教科書であり、そして戦友でもあるということを、この55周年企画展が再認識させてくれたという。

「連載中は、進行で行き詰まったり、ラブ不足で困ったりしたことがあれば、他の先生の作品を見直して、参考にさせていただいてきました。展示を見て、自分も他の先生たちとともに、ベツコミの歴史の一部になれたことを実感できました。

 実は、終わったばかりの『クイーンズ・クオリティ』も、3回ほど打ち切りの気配がありました。その度に担当編集さんがわたしの首の皮を繋いでくれて、なんとか長期連載を走り切ることができた。ベツコミは、わたしたち作家だけが作っているわけではなく、編集さんや読者のみなさん、みんながリレーして、いまの時代まで届けてくれた雑誌だと思います」

 すでに次回作の準備も進めているという最富氏。展示を経ての今後の意気込みも語ってくれた。

「デビューから一貫して、描きたいものを描かせてもらってきました。だけどいま、自分の作品を改めて振り返ってみると、やっぱりいまの時代には合わないなと感じる表現もあります。時代に合った表現や手法を選んで漫画にしていきたいし、それがいつかの“時代のサンプル”になっていけばいいなと、今回の展示を見て強く思いました。漫画というコンテンツを盛り上げていくためにも、筆が走る限り描き続けたいですね」

会場エントランス

 月刊少女漫画雑誌『ベツコミ』の創刊55周年を記念する特別展「ベツコミ55th ANNIV. BEYOND THE PAGE 好き、のつづき。」は、2025年10月13日(月・祝)まで、LUMINE 0 ニュウマン新宿店5Fにて開催中。

イマーシブゾーン『BLACK BIRD』

圧巻のイマーシブ映像で名作の世界へ

 このイベントの目玉は、高さ4メートル、幅20メートルを超える巨大なワイドスクリーンシアターで上映される、オリジナルのイマーシブ映像。『ポーの一族』『BANANA FISH』『BASARA』など20世紀を代表する名作から、『柚木さんちの四兄弟。』『主人恋日記』など令和のベツコミを盛り上げる作品まで、厳選16作品の名シーンが約35分の映像にまとめられている。三面モニターを使った最新技術により、まるで作品の中に入り込んだような没入体験が楽しめる。

体幹ゾーン(制作過程)

貴重な生原画と制作過程の裏側

 会場には50作品以上の貴重な生原画や複製原画を展示。作家の筆致やペンタッチを間近で感じられる貴重な機会だ。さらに、プロットやネームといった制作過程の資料や、ペン入れの様子を撮影したドローイング映像も公開。普段は見ることのできない制作の裏側を知ることができる。

コミックス風ポーチといったグッズも

オリジナルグッズも充実

 会場では『ベツコミ55周年 公式図録』(会場限定カバー付き)をはじめ、ポーチやアクリルグッズ、複製原画など、アニバーサリーにふさわしいオリジナルグッズを販売。税込3,000円分購入ごとに、イベント限定「チケット風クリアカード」全14種からランダムで1枚プレゼント。グッズはイベントチケットなしでも購入可能。

開催情報
会期:2025年10月3日(金)~10月13日(月・祝)
開催時間:平日 11:00~20:30/土日祝 11:00~20:00
(初日:15:00~20:30/最終日:11:00~15:00)
会場:LUMINE 0 ニュウマン新宿店 5F
チケット料金
前売り:一般2,900円、学生2,000円、高校生・中学生1,300円
当日券:一般3,200円、学生2,300円、高校生・中学生1,500円
※小学生以下無料。終日日時指定制。価格は全て税込。
特設サイト:https://betsucomi-55th.flowercomics.jp/event
文/ミクニシオリ

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