国際情報

北朝鮮の権力闘争 権力の空白生じ金正恩体制が崩れる可能性も

2011年12月17日の金正日の急死で、後継者の金正恩新政権が 想定外の早さで立ち上げられた。当初の予定では、今年1年間は金正日と金正恩で「双頭体制」を組みながら、金正恩の偶像化作業を大々的に繰り広げるつもりだった。その計算がもろくも崩れた格好である。金正恩は、まともな偶像化も整わないまま、急造で荒波に船出することになった。今後、金正恩体制はどうなるのか、関西大学教授の李英和氏がレポートする。

* * *
今後の北朝鮮情勢は急激な不安定化を避けられない。結論を先取りすれば、服喪期間の一時的な政治休戦が明け、新政権発足から半年が過ぎた頃から、深刻な権力闘争が政権中枢で表面化し始める。そして、この権力闘争は、右往左往するばかりの金正恩を尻目に、今年中に何らかの決着を見るまで、熾烈に戦われる。この「決着」には2通りがある。

ひとつは、ある派閥が他を一掃して権力を掌握する道。もうひとつは、勝者が決まらずに抗争が延々と続いたあげく、権力の空白状態が生まれて金正恩政権が脆くも崩れ去る道である。筆者の予測では、後者の「決着」の可能性が高い。以下では、きな臭い派閥抗争の震源を探る。

金正日の急死直後、内外の報道機関には「北朝鮮は集団指導体制へ」との活字が大きく躍った。間違いではないが、きわめて不十分な分析と言わざるを得ない。未熟な後継者を頂く北朝鮮が現在、集団指導の下に政権運営を執り行なっている。そのことは事実である。

だが、金正日の急死を受けて、一夜にして集団指導体制が出来上がるはずはない。実際、この集団指導体制は、突然の非常事態にもかかわらず、混乱もなく粛々と新政権を切り回す。それが本当なら「神業」である。だが、事実は違う。

思い起こせば、2008年に金正日が脳卒中で倒れた時にも、政治的な混乱はまったく起きなかった。その背景には、その1年前(2007年)に金正日が発病した初期段階の認知症があった。認知症に気づいた家族と少数の最側近のみが、政治的な重要事項に関して、緊急避難で臨時の「集団指導体制」を密かに作ったのである。

この時点で事実上、北朝鮮は唯一指導体系に基づく「首領制」から離脱していたことになる。その延長線上で、2008年脳卒中と2011年急死の2度にわたる国難に際し、北朝鮮は急変事態を招くことなく、何とか当座の難局を乗り切った。その際に、安全網の役割を演じたものこそ、集団指導体制だった。

この意思決定制度の変化が、北朝鮮の内政と外交の両面に与える影響は計り知れない。同時に、北朝鮮情勢の分析にとって、まったく未知の領域でもある。そこで、2007年当時から、筆者は本誌などで注意喚起を繰り返してきた(拙著『暴走国家・北朝鮮の狙い』PHP研究所刊、参照)。

この2007年から始まる「集団指導体制」の数度にわたる変遷が、これから起きる最終的な権力闘争の震源地となる。そして、その鍵を握る人物は、集団指導体制の変遷の中、一貫して中心に座り続けてきた張成沢・国防委員会副委員長(金正日の義弟)である。

この張成沢は、金正日の国葬の際にも、霊柩車に寄り添って右側先頭を歩く金正恩の真後ろに陣取った。反対側の先頭は李英鎬総参謀長が固めた。李英鎬は張成沢と同盟関係を結ぶ人民軍トップである。この党と軍を仕切る両名が金正恩の後見人であり、集団指導体制で車の両輪の役目を果たすことになる。

※SAPIO2012年2月1・8日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
岸信夫元防衛相の長男・信千世氏(写真/共同通信社)
《世襲候補の“裏金相続”問題》岸信夫元防衛相の長男・信千世氏、二階俊博元幹事長の後継者 次期総選挙にも大きな影響
週刊ポスト
女優業のほか、YouTuberとしての活動にも精を出す川口春奈
女優業快調の川口春奈はYouTubeも大人気 「一人ラーメン」に続いて「サウナ動画」もヒット
週刊ポスト
二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ
《独立後相次ぐオファー》二宮和也が『光る君へ』で大河ドラマ初出演へ 「終盤に出てくる重要な役」か
女性セブン
真剣交際していることがわかった斉藤ちはると姫野和樹(各写真は本人のインスタグラムより)
《匂わせインスタ連続投稿》テレ朝・斎藤ちはるアナ、“姫野和樹となら世間に知られてもいい”の真剣愛「彼のレクサス運転」「お揃いヴィトンのブレスレット」
NEWSポストセブン
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
デビュー50年の太田裕美、乳がん治療終了から5年目の試練 呂律が回らず歌うことが困難に、コンサート出演は見合わせて休養に専念
女性セブン
今回のドラマは篠原涼子にとっても正念場だという(時事通信フォト)
【代表作が10年近く出ていない】篠原涼子、新ドラマ『イップス』の現場は和気藹々でも心中は…評価次第では今後のオファーに影響も
週刊ポスト
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
破局した大倉忠義と広瀬アリス
《スクープ》広瀬アリスと大倉忠義が破局!2年交際も「仕事が順調すぎて」すれ違い、アリスはすでに引っ越し
女性セブン
大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン