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警察庁が作った天下り斡旋会社代表「何の問題もないだろ!」

官民癒着をもたらし、雇用確保のために作られた外郭団体は国民の血税を吸い上げる。官僚組織“最大の病理”であり、国家喫緊の課題が「天下り撲滅」だ。しかし、今も官僚たちは“法の網”をかいくぐり、天下りを行なっている。 “法と秩序の番人”たる警察庁も、「天下り斡旋ダミー会社」を秘密裏に設立していた。ジャーナリストの青木理氏がレポートする。

* * *
公務員の天下りについて、2007年6月の通常国会で、各省庁によるOB天下りの斡旋を禁ずる改正国家公務員法が成立した。また、内閣府に「官民人材交流センター」を設置し、国家公務員の再就職斡旋をここに一元化することも決められた。これにより、2008年12月のセンター設置から、各省庁が天下りや渡りを斡旋する行為は、最高で懲役3年の刑事罰を科される明確な違法行為となっている。しかし、その“法の網”かいくぐる重大な疑惑が浮上した。

東京・千代田区の平河町に〈株式会社サン綜合管理〉という会社がある。同社の法人登記簿によると、現在同社の代表取締役に就いているのは人見信男氏。東大法学部を卒業して1972年に警察庁入りし、奈良県警本部長や警視庁副総監やなどを歴任した人物である。そればかりでない。同社の役員は、既に退任した人物まで含め、人見氏以外も全員が警察官僚OBで占められていた。

登記簿をめくると、同社の設立日は2008年4月8日と記載されている会社の目的欄は次のように雑多な項目が列挙されていた。

〈不動産管理及び賃貸事業、経営コンサルティング事業、食品・酒類・書籍などの物販……〉

ところが、会社設立から半年にも満たぬ2008年9月1日、当初の警察官僚OBに代わって人見氏が代表取締役に就き、同時に登記上の目的欄に突如、次のような一項が追加されたのだ。〈職業紹介事業〉

警察庁の内情に詳しい関係者が驚くべき話を訊かせてくれた。

「現在は国家公務員OBの再就職―いわゆる『天下り』を中央省庁が斡旋する行為は法的に禁止されています。でも、役所としては斡旋や調整をしないわけにいかない。警察庁は民間のダミー会社を設立し、そこを通じて斡旋をやることにしたんです。それが『サン綜合管理』という会社です」

別の警察庁関係者も、こう打ち明けた。

「もちろん実際の斡旋や調整は(警察庁の)長官官房人事課の意向に則ってやるわけだけれど、あくまでも民間の会社という建前を押し通せば、違法行為ではないと言い逃れることができる。人見さんは警察庁で人事課長もやっていて、天下りやOB人事のウラもオモテも知り尽くしてるからね。まさに適任だということで、白羽の矢が立ったんだろう」

そこで私と本誌取材班は、そのトップである人見信男氏を直撃した。

都内の高級住宅地にある人見氏の自宅を私たちが訪ねたのは、関東地方に雪が降った1月23日の夜だった。この日、人見氏は、午後10時近くにタクシーで帰宅した。酒に酔っていたのか、もともとがそういう人柄なのか、随分と乱暴な「べらんめえ」口調で玄関先での取材に応じた人見氏。極めて重要な内容なので、その一問一答を、発言通り正確に紹介する。

――人見さんが代表取締役を務められているサン綜合管理という会社についてうかがいたいのですが。

「何だよ! 俺があんたらに言うことないだろっ!」

――代表取締役の人見さんをはじめ、全役員が警察OBの方々ですね。

「ああ、そうだよ。それが何か悪い?」

――いったい何をやられている会社なのですか。

「そんなもの、自分で調べろよっ!」

――私どもの取材では、警察庁OBの天下りを斡旋している会社だと承知していますが。

「何っ? 何をやろうと自由だろ、(自分は)もう警察とは関係ないんだから! だろっ? 俺が後輩のために何をやろうと自由だろっ? 俺がやったら何か(問題)あるの? 俺はね、自分の好きなことをやりたいんだよ、後輩のために。分かった!?」

――後輩というと、警察庁の後輩ですか。

「そうさ。警察庁のためだけじゃないけど、(再就職などを)やりたいやつがいたら、俺がやってやる。後輩のためだ」

――2008年9月に、会社の登記上の目的に「職業紹介事業」を追加してますね。

「当たり前だろっ。民間企業は、定款に書いてないことをやっちゃいかんよ。俺は法律通りやってるんだ。そこを分かって(取材に)こいよ! そういうことなんだよっ! 何の問題もないだろ? 何か問題か? えっ? えっ?」

最後まで乱暴な口調でまくしたてた人見氏だが、表情と態度には明らかに動揺と狼狽の色が滲んでいた。そして、同社の元役員と同じく「後輩のため」という理屈を持ち出し、「警察庁OBの天下り斡旋」を行っていると認めたのである。

※週刊ポスト2012年2月10日号

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