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若者の車離れの次は熟年の車離れ トヨタの過ちを専門家指摘

若者の車離れが加速している。かつてトヨタ自動車の豊田章男社長はその理由を問われて「良く分からない」と答えたが、危機管理専門家であるリスク・ヘッジ代表の田中辰巳氏によれば、このままでは「若者の車離れ」だけではなく、「熟年の車離れ」も進むという。以下は、田中氏の視点だ。

* * *

2010年の10年26日、テレビ東京のワールドビジネスサテライトに出演した豊田章男社長は、小谷真生子キャスターに『若者の車離れの理由』を問われた。答えは「良く分からないのですが」だった。社長就任から間がないとは言え、あまりに残念な言葉に私は唖然とした。

トヨタのお膝元の愛知県に生まれた私は、幼い頃から車が好きだった。部屋には常にスーパーカーのポスターを貼り、スポーツカーのプラモデルを組み立てて遊んでいた。家業も自動車部品を加工する町工場で、必然的に最初の就職先も自動車部品の製造メーカーだった。

新入社員当時の私はトヨタのカリーナに乗っていたが、本音を言えばセリカやコロナの2000GTに乗りたかった。後に発売されたソアラには心底憧れて、それを買えない悔しさこそが、後の転職から独立の動機となったくらいだ。根底には学生時代のコンプレックスもあった。

大学(慶応)の時、同級生がフェアレディーZやケンとメリーのスカイラインを乗り回していた頃、私は町工場にあった油まみれのライトバンを運転していたからである。あの無念な気持ちは、今でも忘れられない。

私を含め、当時の若者が競ってカッコイイ車に乗ろうとしたのは、車がデートの必須アイテムだったからだ。デートと言えば車、車と言えばデート、と言っても過言ではない。

テレビのCMも『ケンとメリーのスカイライン』に象徴されるように、若い男女にターゲットを絞っていた。青春映画やテレビの恋愛ドラマでも、デートの場面には必ず人気の車種が登場していたものだった。

それが今では、低燃費だのエコカーだの、あるいは安全性や収納性の高さなど、機能の優位性を訴えるCMばかり。その結果、若者の目から見れば、オジサンやオバサンの乗り物としか見えないだろう。

昨今のトレンディードラマにも、デートに車が登場するシーンは滅多に見られない。これでは、若者が車に乗りたくなる訳がない。私はこれが、若者の車離れの最大の原因だと思っている。

背景として、公共交通機関網の整備による、車の必要性の低下もあるだろう。しかし、それは若者の行動範囲が、都市部に偏っているからに他ならない。

地方へ足を延ばせば、逆に公共交通機関網は衰退している。従って、魅力的なデートスポットを地方に見い出せば、若者は車の必要性を感じ始めるに違いない。首都の東京から見ても、軽井沢や那須高原あるいは湘南や伊豆など、車で二時間も走れば行けるデートスポットは沢山ある。

カーメーカーの広告宣伝力をもってすれば、トレンディードラマのデートシーンに、車を登場させることなども難しくない筈だ。CMにも「二人だけの空間。車でしか行けない場所がある」くらいのナレーションを流して欲しいものだ。

事業はサイクル型に構築しないと、寿命が短くなってしまうものだ。若い頃に車を運転しなかった人は、年を取っても車を運転しないから、やがて熟年層の車離れも深刻になってくるに違いない。

その熟年層の子女、すなわち未来の若者は、今よりも更に車離れを起こすだろう。逆に、若者が車にのれば、年とともに高級車に乗り換えていく。たとえば、ベンツはC→E→S、BMWは3→5→7、というように。

そして、ベンツのSクラスに乗った親は、子供にベンツのCクラスを買い与えたくなる。BMWの7シリーズに乗った親は、子供にBMWの3シリーズを買い与えようとする。これがサイクル型の事業である。トヨタには、この発想が欠けていると私は思っている。

トヨタ系の部品メーカー(アイシン精機)に勤務していた私の目には、トヨタが道を間違えた発端はセルシオだったと思えてならない。素晴らしい性能の高級車が生まれ、収益率も飛躍的に高まった。その成功体験が、国内でのサイクル型の事業構築を疎かにしてしまったのではないか。

米国におけるセルシオはレクサスだが、サブプライムローンの担保余力という特需で売れた。サイクル型事業などとは程遠い因果関係で……。だから、一瞬にして業績が悪化してしまったのだろう。

新年に行われた経済団体の賀詞交歓会で、今年のキーワードを聞かれた豊田章男社長は、「笑顔」と回答していた。思わず私はパチンコメーカーSANKYOの、沢口靖子さんのCMを思い出してしまった。せめて、「若者の笑顔」と言って欲しかったと思ったのは、私だけではなかったであろう

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