今から1300年前に編纂された『古事記』は、現存する日本最初の書籍だ。同じく奈良時代に成立した正史『日本書紀』より8年早い。今年は『古事記』が編纂されてから1300年の節目にあたるという。
『古事記』の原文は、文庫本にすればわずか100ページ弱。そこに国土の始まりから天武天皇にとって曾祖母の代にあたる推古天皇までを、ほぼ同量ずつ3巻に分けて記す。
上巻は「神々の物語」、中巻は人の代になるが、神との交流も多く、「神と人の物語」、下巻は神々から解放された「人の物語」である。
上巻はおよそ次の4つの部分に分けられる。
【1】イザナキとイザナミの物語
天と地が現われてのち男神イザナキ、女神イザナミが行なう「国生み」と「神生み」。そして死んだイザナミを黄泉国まで訪ねるイザナキの話。妻の死体を見て逃げ帰ったイザナキが、川で穢れを祓っているときに誕生したのがアマテラスとスサノオだ。
【2】高天原の物語
高天原を治めるアマテラスのもとへ、亡き母のいる根の堅州国へ行きたいとスサノオは暇乞いに訪れる。ここで乱暴狼藉を働いたスサノオを恐れたアマテラスの「天の石屋ごもり」が語られる。スサノオは下界(出雲)に追放される。
【3】出雲の物語
スサノオの八俣の大蛇退治、その子孫であるオオクニヌシの物語が語られる。
【4】日向高千穂の物語
アマテラスの孫ニニギが日向の高千穂の峰に降り下る。ニニギはコノハナノサクヤビメと結婚、生まれた兄弟を主人公に「海幸山幸」の物語が展開し、ニニギの曾孫にあたるカムヤマトイワレビコ(神武天皇)を登場させる。
中巻は、神武天皇の東征から始まる。高千穂を出て東へ進軍した神武天皇は、大和の橿原(かしはら)に到達、天下を治めた。こののち第2代綏靖(すいぜい)天皇から第15代応神天皇までの系譜とエピソードを収める。なかでも第12代景行天皇の皇子ヤマトタケルの西征東征の物語はよく知られている。
下巻には、第16代仁徳天皇から第33代推古天皇までの事績を収める。民の竈に煙が上ってないのを見て徴税をストップしたり、女性好きであったりと、天皇はより人間くさい姿で登場する。
「なぜ天皇が日本を統治するか、という由来を説いたのが古事記神話です。その中にいくつもの工夫が凝らされています。たとえば動物の助けを受ける、弱いものが強いものに勝つ(判官贔屓)、女性の力によって英雄となる主人公など、後世のさまざまな物語に影響を与えたエッセンスがすべて入っている。とにかくハラハラドキドキ、想像力が刺激されます。作品として素直に味わってほしいと思いますね」(古代文学研究者の山田永氏)
※週刊ポスト2012年3月2日号