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「障害者がソープへ行く賛否」論争はなぜ結論が出なかったか

 障害者への射精介助を行う非営利組織「ホワイトハンズ」の代表・坂爪真吾氏。こうした活動をはじめるきっかけとはなんだったのか。新刊『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館101新書)を上梓したばかりの坂爪氏が解説する。

 * * *
 私がホワイトハンズをはじめるきっかけになったのは、東京大学在学中に行った、歌舞伎町の性風俗研究です。私が所属していたのは、社会学の中で、ジェンダーとセクシュアリティをテーマにした研究を行う、上野千鶴子教授のゼミです。
 
 当時の上野ゼミは、その厳しさと恐ろしさが天下にとどろく「日本最恐」のゼミでした。私も、ゼミの発表の中で、散々「血祭り」「公開処刑」にされながら、論理的思考能力と、メンタル面でのタフネスを、徹底的に鍛えられました。
 
 社会学という学問は、一言でいえば「物事の社会的な前提を疑う学問」。目の前の現象や出来事、相手の発言をそのまま鵜呑みにするのではなく、常に「裏を読む」「前提を疑う」ことが求められます。

 社会学を学べば学ぶほど、相手の言うことやメディアで流れている情報を「まず疑ってかかる姿勢」が身につきます。その姿勢の中で、最も大切なことは「問題設定そのものを疑う」発想です。

 過去に、「障害者がソープランドに行くことに、賛成するべきか、反対するべきか」という論争がありました。賛成派は、「障害者にも性的な欲求を満たす権利がある」と主張し、反対派は、「買春は女性差別だ」「障害者も恋愛するべき」と主張し、議論は明快な結論を出せないまま、終わりました。

 しかし、これは典型的な「問題設定自体が間違っている問題」です。真に考えるべきことは、障害者がソープランドに行くことの是非ではなく、問題設定自体に潜んでいる問題点、すなわち、「なぜ、異性とセックスするための選択肢は、恋愛とソープランド(売買春)の2つしかないのか?」「そのどちらにもコミットできない人は、どうすればいいのか?」ということです。
 
 間違った問題設定を信じてしまうと、「答えの出ない問題に答えを出そうとして、膨大な時間を無駄にする」という落とし穴にハマってしまいます。この「問題設定そのものを疑う」発想は、間違った問題設定だらけの性の分野で起業するにあたって、とても役に立ちました。

※坂爪真吾/著『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』より

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